2016.06.28更新

 インド商工省産業政策促進局(Department Of Industrial Policy & Promotion/DIPP)は、2016年6月24日付プレスノートNo.5(以下「プレスノート」)にて、 FDIポリシーの大幅な改定を公表しました。2016年度統合版FDIポリシー(以下「統合版FDIポリシー」)が公表されてから初の改定となりますが、改定内容が多岐に渡るため、インドにおける外国直接投資に大きな影響を与える内容となっています。本稿では、2016年6月24日付プレスノートによるFDI規制に関する変更点について解説します。

 

1 参入条件以外のその他投資条件  

 プレスノートは「参入条件以外のその他投資条件」として、3.7.2項を追加しました。  

 この改定によって、インドにおける支店、駐在員事務所、プロジェクトオフィスその他事業拠点の形成に関して、その主要事業が防衛産業、通信、民間セキュリティー又は情報・放送に該当する申請者が、外国投資促進委員会又は関連省庁の承認を事前に取得している場合、本来必要なインド準備銀行の承認の取得が不要となりました。

 

2 農業及び畜産  

 プレスノートは、「農業及び畜産」について規定する5.2.1項を改定しました。  

 これまでは、気候や栄養、健康等が統制されている、管理された状況下での畜産分野に対する外国直接投資のみ許されていましたが、プレスノートによって、管理された状況下以外での畜産が許されることになりました。

 

3 製造業  

 プレスノートは「製造業」について規定する5.2.5項を改定しました。  

 従来、統合版FDIポリシー5.2.5項は、FDIポリシーに従い製造業セクターに対する外国投資は自動ルートとすること、及び、製造業者は、政府の承認を得ることなく、卸売業者又は小売業者を通じて(eコマースを含む)インドで製造したその製品を販売することができる旨規定していました。  

 プレスノートは、この内容に加えて、FDIポリシーの取引業セクターに関する規定に反しない限り、インドで製造・生産された食料品に関するEコマースを含む取引業は、自動ルートにより100%の外国直接投資が認められること、食料品小売分野に対する外国直接投資の申請は、中央政府による承認検討の前に、DIPPによって審理されることを新たに規定しました。  

 従前許されていなかった、食料品の製造・小売分野に対するFDI規制が大きく緩和され、食料品分野への投資が大きく可解放されたことになります。

 

4 防衛産業  

 プレスノートは「防衛産業」について規定する5.2.6項を改定しました。  

 防衛産業分野に対する外国直接投資は、従前は49%までが自動ルート、これを超える場合はインドに近代的かつ「最新」(state-of-art)の技術を導入する可能性があることを条件に政府ルートによる投資が認められていました。  

 プレスノートは、当該導入条件について、インドに近代的技術を導入する場合又はその他特記されるべき理由が認められることを条件に、政府ルートによる投資が認められる旨改定しました。「最新」(state-of-art)という文言を削除している点及びその他特記されるべき理由が認められる場合にも49%を超える投資が認められうる点で条件を緩和したということができます。  

 また、これまで政府エージェントについてのみ許されていた、武器法(the Arms Act, 1959)上の小型武器及び弾薬の製造が許されることになりました。

 

5 放送キャリッジサービス  

 プレスノートは「放送キャリッジサービス」について規定する5.2.7.1項を改定しました。  

 これまでは、通信ネットワーク拠点、家庭向け直接放送、ケーブルネットワーク等の放送キャリッジサービス分野への外国直接投資は、49%まで自動ルート、これを超える場合には政府ルートとされていました。  

 プレスノートは、放送キャリッジサービス分野に関して、自動ルートにより100%の外国直接投資が認められると改定しました。ただし、関係省庁からライセンスまたは認可を求めることなく実施される、49%を超える新規外国直接投資であって、その結果、会社の所有形態を変更させ又は既存株主から新規外国投資家への持分の移転させるものに関しては、政府承認が必要とされています。

 

6 民間航空  

 プレスノートは、「民間航空」のうち、空港事業について規定する5.2.9.1項及び空港輸送サービスについて規定する5.2.9.2項について改定しました。  

 従来、74%を超える既存空港事業への外国直接投資は、政府承認が必要とされていましたが、プレスノートはこの点を改定し、自動ルートにより100%の外国直接投資が認められるようになりました。  

 また、定期航空輸送サービス及び国内定期旅客航空分野に関しては、これまで自動ルートにて49%まで外国直接投資が認められていましたが(非居住インド人に関しては100%)、プレスノートは出資比率上限を撤廃し、100%までの外国直接投資を認め、49%までは自動ルート、49%を超える場合には政府ルートによるものとしました(非居住インド人は100%まで自動ルート)。

 

7 民間セキュリティー  

 プレスノートは、「民間セキュリティー」について規定する5.2.13項を改定しました。  

 政府ルートにて認められていました。プレスノートは、出資比率上限を49%から74%まで引き上げ、49%までは自動ルート、49%から74%までは政府ルートによるものとしました。 8 単一ブランド小売業  プレスノートは、「単一ブランド小売業」について規定する5.2.15.3項を改定しました。  

 出資比率が51%を超える形で単一ブランド小売業分野に外国直接投資を行う場合、商品購入価値の30%はインド国内で調達されなければならないという制限が課されています(ソーシング・ノルマ)。この例外として、これまでは、単一ブランド小売業を営む企業の製品が最新かつ最先端(“state-of-art” and ”cutting-edge”)であり、現地での調達が不可能な場合には、政府はソーシング・ノルマを緩和することができるものと規定されていました。

 プレスノートでは、単一ブランド小売業を営む企業の製品が最新かつ最先端(“state-of-art” and ”cutting-edge”)であり、現地での調達が不可能な場合、ソーシング・ノルマが事業の開始(第一店舗の開店)から3年間適用されないものとされました。

 

8 製薬業  

 プレスノートは、「製薬業」について規定する5.2.27項を改定しました。  

 従前は、製薬業分野に対する外国直接投資は、新規事業に関しては自動ルートにて100%までの出資が認められていたのに対して、既存事業へ投資は政府ルートにて100%までの出資が認められていました。  

 プレスノートは、既存の製薬業への投資条件を緩和し、74%までは自動ルート、74%を超える場合は政府ルートによるものと改定しました。ただし、製薬業分野における既存事業への投資条件として、製品水準及び研究開発費の維持、技術移転情報の報告義務が新たに課されました(5.2.27.3(iv)(a)~(c))。

 

 2016年6月24日付プレスノートNo.5の原文はこちら

 

棚瀬法律事務所 デリー駐在弁護士 遠藤 衛

投稿者: 棚瀬法律事務所

2016.06.27更新

相談内容:弊社は、医療機器をインドで製造・販売している会社です。弊社の顧客には、病院のみならず個人も含まれています。先日地域フォーラムという機関を通して、代理店から弊社商品を購入した個人のお客様から、弊社商品を使用したところ怪我をしたという苦情が届きました。製造物責任が問題になるのかと推測しますが、製造物責任をはじめとするインドの消費者保護法制はどのようになっているのでしょう。

 

1 インド消費者保護法制  

 インドにおける消費者保護は、主に消費者保護法(Consumer Protection Act, 1986)によって図られていますが、問題となる商品によっては、別途個別法による消費者保護が図られることもあります。なお、インドには日本の製造物責任法に相当する法律は存在しません。

 相談事例のケースでは、特に消費者保護法のほか、医薬・化粧品法(Drugs and Cosmetics Act, 1940)、も問題になりえますが、本稿ではインド消費者保護制度の中心となる消費者保護法に焦点を当てて解説します。

 

2 消費者保護法  

 日本の消費者保護法が実体法的側面に重きが置かれているのに対して、インドの消費者保護法は、消費者問題に関する特別な紛争解決手続きを規定することで消費者の保護を図っています。インドでは通常認められていない懲罰的賠償や消費者のクラスアクションといった企業責任を加重させる制度を導入している点に特徴があります。

 インドにおける消費者問題は、時に企業に対して甚大な損失を及ぼすため、軽視することはできません。代表的な事例として、スイス食品大手のネスレのケースが挙げられます。2015年に、インド食品安全基準局は、ネスレが販売する、インドの国民的インスタントヌードルであるMaggiに規定量を超える鉛が含有されているとして、その販売を差止めするとともに、消費者保護法に基づき、約64億ルピーに及ぶ補償金を求めるクラスアクションを提起し、インドでビジネスを行う企業に衝撃を与えました。

 消費者問題を検討するに際しては、誰が、どのような理由に基づいて、どういった請求をしてくるのかという点や、手続の概要を理解することが理解することが有益です。以下、消費者保護法が定める手続きの申立人、審理対象となる苦情や手続きの概要について解説します。

 

(1) 申立人  

消費者保護法は、同法が規定する特別手続きを利用できる申立人(complainant )の範囲として、以下のように規定しています(消費者保護法2条1項(c))

  

(i) 消費者  

 なお、消費者には、対価を支払って商品を購入したものや購入者に使用を許諾された商品のユーザーが含まれますが、再販売目的といった商業目的で商品を購入したものは消費者に含まれません。また、消費者にはサービスのユーザーや、当該ユーザーからサービスの利用を許諾されたものを含みますが、商業目的でサービスを利用するものは消費者から除外されています(消費者保護法2条1項(d))

(ii) 会社法上の登記をされている非営利消費者団体

(iii) 中央政府又は州政府

(iv) 共通の利益を有する1名以上の消費者

(v) 死亡した消費者の相続人又は代理人  

 

 このように、消費者保護法は商業目的がある場合を除いて、広く商品購入者又はサービス利用者が消費者に含まれると規定し、申立人適格を認めています。また、共通の利益を有する複数の消費者に対して申立人適格を与えることで、クラスアクションを認めています。特に中央政府が動くようなケースでは、係争額も大きくなりやすく、企業にとって大変なリスクとなります。

 相談者のケースでは、医療機器の購入者として病院や個人が想定されていますが、病院は、商業目的のもと医療機器を購入することが通常であり、苦情申立人に該当しないこととなります。これに対して、医療機器を購入した個人は、商業目的を備えないことが通常ですので、申立人に該当し得ます。

 

(2) 審理対象となる苦情

 審理対象を正確に理解することは、消費者保護法がどのような問題を消費者紛争と位置付けているかを把握することにつながり、ひいては消費者紛争の予防にも資するといえ、特に重要です。

 消費者保護法は、申立人が書面で行う以下の申立てが、審理対象となる苦情(complaint)に該当すると規定しています(消費者保護法2条1項(c))。

 

(i) トレーダー又はサービスプロバイダーによる不公正取引又は制限的取引

 なお、ここにいう不公正取引として、優良誤認表示といった不当表示又は不実表示、販売する意図のない割引価格の提示、商品コストの上昇を意図した商品の貯蔵、破棄、販売拒絶や模造品の販売等が列挙されています。

 「制限的取引」とは消費者に不当なコストや制限を課す価格操作や配送条件の設定等を意図した取引を意味し、配送遅延のコストを消費者に負担させる行為や、特定の商品購入の条件として他の商品の購入を要求する行為が含まれます。

(ii) 商品の欠陥

(iii) サービスの欠陥

(iv) トレーダー又はサービスプロバイダーによる法定価格、商品のパッケージ記載価格又は当事者が合意した価格等を超える代金請求

(v) 法が規定する安全基準に違反し、その公衆に対する販売が生命又は安全に危害を及ぼしうる商品、又はトレーダーが通常要求される注意を払えば公衆に対する危険性が予見可能であって、その公衆に対する販売が生命又は安全に危害を及ぼしうる商品

(vi) サービスプロバイダーが通常要求される注意を払えば公衆に対する危険性が予見可能であって、その公衆に対するサービスの提供が公衆の生命又は安全に危害を及ぼしうるサービス  

 

 このように、消費者保護法は多岐にわたる消費者紛争類型を苦情として認めることで、消費者の保護を図っています。なお、トレーダーには、商品の販売者はもとより、ディストリビューター、さらには製造業者が含まれるとされており(消費者保護法2条1項(J))、製造物の欠陥によって損害を被った場合、これらの者を相手取り紛争解決を図ることが可能です。相談者のケースは、このカテゴリーによって苦情を申し立てたものと考えられます。

 

(3) 地域フォーラムにおける手続概要

 消費者保護法は、消費者紛争を解決する特別な紛争解決機関として地域フォーラム、州フォーラム、ナショナル・コミッションについて規定しています。苦情の申立ては、その申立額等に応じて、地域フォーラム(申立額2,000,000ルピー以下)、州フォーラム(申立額2,000,000ルピー超え10,000,000ルピー以下)又はナショナル・コミッション(申立額10,000,000ルピー超え)にて審理されます。地域フォーラムにおいて下された命令に対しては州フォーラムに、州フォーラムにおいて下された命令はナショナル・コミッションにそれぞれ上訴可能です。

 地域フォーラムにおける手続具体例は以下のとおりです。まず、商品の苦情が問題となっているケースでは、まず地域フォーラムは、通常申立てを受理した日から21日以内に申立てられた苦情に正当性があるか否かに関して判断します(消費者保護法12条3項)。正当性があると判断された場合、地域フォーラムは、苦情の相手方に対して、苦情が認定された日から21日以内に、正当性があると認定された苦情のコピーを送付すると共に、原則30日以内の当該苦情に対する意見提出を命じなければなりません(消費者保護法13条1項)。

 その後、証拠調べ類似の手続が実施されます。試験所によって実施される鑑定類似の手続が導入されている他、いずれの手続も準司法的な手続となっており(同5項)、民事訴訟法における証人の召喚や証人尋問手続に関する規定が準用されております(同4項)。地域フォーラムは、申立苦情の相手方からの意見の提出を受けてから、原則として3ヶ月以内(試験所による検査が必要な場合、欠陥等の有無のための検査が必要なため、原則として5ヶ月以内)に苦情に対して判断を下さなければなりません(同3A項)。

 審理の結果、苦情に理由があると判断された場合、地域フォーラムは、以下の一つ又は複数の命令を下します(消費者保護法14条1項)。

 

(a) 試験所によって認定された係争商品に存在する欠陥の除去

(b) 欠陥の存在しない新品の類似商品との交換

(c) 申立人に対する、申立人が支払った代金の返金

(d) 相手方の過失によって消費者に発生した損失又は傷害に対して地域フォーラムが認定した補償金の支払い(地域フォーラムが適切と判断した場合には、懲罰的賠償も認定可能)

(e) 係争商品又はサービスに存在する欠陥の除去

(f) 不公正取引又は制限的取引の停止

(g) 販売のための有害商品提供の停止

(h) 販売中の有害商品の回収

(ha) 有害製品の製造停止又は有害サービスの提供停止

(hb) 多数の消費者に損失又は傷害が生じているものの、その消費者を容易に特定出来ない場合、地域フォーラムが認定した補償金の支払い

(hc) 誤解を招く広告を発行した相手方の費用負担において、当該誤解を招く広告の影響を中立化させる正しい広告の発行

(i) 適切な経費の支払い

 

 このように、消費者保護法は比較的短期間で終結する紛争解決手続を規定するとともに、地域フォーラム等に対して、柔軟な紛争解決手段を与えています。  相談者のケースでは、地域フォーラムが申立てられた苦情に理由があると判断した場合、代替商品の提供はもとより、製品によって生じた傷害の懲罰的賠償、さらには市場に出回っている製品の回収が命じられるおそれもなしとは言えません。

 

3 その他個別法による消費者保護  

 消費者保護法は、法が規定する安全基準に違反し、その公衆に対する販売が生命又は安全に危害を及ぼしうる商品の販売を苦情として認めていますが(消費者保護法2条1項(c)(v))、相談者との関係で問題となっている医療機器の安全基準には、医薬・化粧品法に規定があり、医薬・化粧品法の定める安全基準によって消費者の保護が図られていることとなります。

 

棚瀬法律事務所 デリー駐在弁護士 遠藤 衛

投稿者: 棚瀬法律事務所

2016.06.11更新

 

1 インドにおける粉飾決算と監査役の責任

 近時、日本において粉飾決算とこれにまつわる監査役の義務及び責任が取り沙汰され、議論されておりますが、インドにおいても同様の議論が存在します。その端緒が2009年に発生したSatyam Computer Services Limited(以下「Satyam」)の粉飾事件です。Satyam粉飾事件の発覚により、監査役の義務と責任のあり方が積極的に議論するに至り、また、同事件は2013年に改正されたインド会社法にも大きな影響を与えております。本稿では、日本会社法における監査制度と対比しつつ、Satyam事件の概要と新会社法における監査役の義務と責任について俯瞰します。

 

2 Satyam粉飾決算事件の概要

 2009年1月7日、インドの著名IT企業であるSatyamのCEOであるRamalinga Raju氏が辞職するとともに同社が粉飾決算を行っていることを告白しました。その粉飾は約7年間にわたって行われており、粉飾額は約11億米ドルに及びました。そして、この粉飾の結果、同CEOは懲役7年の宣告をうけています。

 同事件において、会計士による意図的な粉飾の見逃しが認定されたわけではないものの、粉飾を見抜けなかったことに重過失があったものとして、インド勅許会計士協会は、同社の監査に従事していた4名の勅許会計士に対し、生涯にわたって勅許会計士活動を禁止する処分を下すとともに、そのうち監査部門代表パートナーに約80万米ドルの最高額の経済制裁を課しました。また、同事件をきっかけに、Confederation of Indian Industries(CII)等の産業団体がコンプライアンスに関する提言を行い、インド企業省がコーポレートガバナンスに関する任意ガイドラインを制定するなど、監査役の役割と責任に関する議論が活発化しました。Satyam粉飾決算事件は、不正会計や非倫理的監査といったインドにおけるコーポレートガバナンス実務の欠点を浮き彫りにしたのです。

 これらの議論を踏まえ、2013年に大幅に改正されたインド会社法では、監査に関するコンプライアンス水準が大幅に引き上げられるに至りました。

 

3 インド会社法における監査制度

 

(1) 日本会社法との監査制度の差異
 インド新会社法下における監査制度の中身に踏み込む前提として、日本とインドの監査制度に関する主要な差異について説明します。

 まず、日本では、全ての会社に対して公認会計士等の外部の専門家に会計監査を実施させる義務が課されるわけではありませんが、インドにおいては、全ての会社が勅許会計士(日本における公認会計士)または会計事務所を監査役として選任し、会計監査を実施させ、しかもその結果を中央政府に報告しなければならない点で大きく異なります。

 また、日本における監査の範囲は、監査役に取締役の行為の差し止め権限に象徴されるように、会計監査のみならず業務監査にも及びますが、インドにおける監査役の監査範囲は会計監査に焦点が当てられており、監査役の業務範囲が異なります。

 

(2) 法定監査
 このように、監査役の主な役割が会計監査にあるため、インド会社法における監査制度は法定監査と呼ばれる会計監査を中心に設計されております。 監査役は、会社の財務書類や会計帳簿が法の定める会計基準に従って作成されていることを確実にするために監査報告書を作成しなければならず(会社法143条2項)、これを法定監査といいます。

 新会社法は第10章の139条から147条にかけて、法定監査に関連して監査役の選任、解任/辞任、適格、資格、非適格について規定しております。改正に伴い、監査役の役割と責任に関する新たな条文が導入されており、また、監査役の義務や非適格要件の範囲を拡大しております。

 

(a) 監査役の選任、解任、補充
 全ての会社は、監査役を選任しなければならず(会社法139条1項)、 原則としてその選任は株主総会普通決議によって行われます。具体的には、取締役会は、次期監査役を選任するために、勅許会計士協会等による処分の有無、監査役としての適格の有無、その会社の規模や要求に見合った経験や技能の有無を考慮した上、監査役候補者の名称を、定時株主総会において株主に対し推薦し(施行規則3条1項、3項)、これを受けて株主は定時株主総会において監査役を選任することとなります。なお、監査役は毎年の定時株主総会において株主の承認を受けなければなりません(会社法139条1項第1但書)。

 新たに設立された会社の場合、会社登記から30日以内に取締役会が最初の監査役を選任しなければなりませんが、これを怠った場合、当該取締役会は会社の株主等に当該事実を通知し、同株主等が90日以内に臨時株主総会によって最初の監査役を選任しなければなりません。当該監査役は最初に行われる定時株主総会の終結まで監査役の職務に服します(同条6項)。

 これに対して、任期満了前に監査役を解任するためには、非常に厳格な手続要件が要求されております。具体的には、中央政府の事前承認を得た上で、聴聞の機会の付与を前提とする株主総会特別決議を経る必要があります(会社法140条1項)。

 また、監査役に欠員が出た場合、取締役会は30日以内に取締役会決議によって監査役を選任しなければなりませんが、同欠員が監査役の辞任によって発生した場合、取締役会の選任に加えて、取締役会の推薦から3ヶ月以内に開催される株主総会の承認決議を得なければなりません(139条8項)。

 

(b) 監査役の任期
 監査役の任期は原則として5年1期とされております(139条1項)。 ただし、Satyam粉飾決算事件を受けて、同一監査役によって長期間におよぶ監査が実施されることによって重大な不正会計が行われる危険を避けるため、一定規模以上の会社に対して、監査役の再任に関する規制が導入されました。

 具体的には、(i)上場会社、(2)払込資本金額が1億ルピー以上の公開会社、(iii)払込資本金額が2億ルピー以上の非公開会社、(iv)公的借入等が5億ルピー以上の会社においては、5年1期(会計事務所の場合には再任も含め5年2期の計10年まで伸長可能)の任期満了後、5年間は当該監査役をその会社の監査役として選任することはできないこととされました(ローテーション義務。139条2項、施行規則5条)。なお、ローテーションの後任として、同一の関連組織に属する個人または会計事務所を監査役として選任することは許されません(施行規則6条3項2号)。

 

(c) 監査役の資格要件と非適格要件
 勅許会計士又はインドにおけるパートナーの過半数が勅許会計士である会計事務所(LLPを含む)が、監査役に就任することができます(会社法141条1項2項)。 旧会社法では、法人(LLPを除く)又は会社の役員若しくは従業員又は会社、その親会社、その子会社又はその関連会社に対して負債有するもの若しくは1,000ルピーを超えるその株式その他利害関係を有するものは、その会社において監査役として選任される適格を有しないとされておりました。

 しかし、法定監査実施における更なる独立性を確保するために、会社法は以下の法定監査人選任に関する非適格要件の範囲を拡大しました(141条3項)。

(i) 会社、その子会社、その親会社又はその関連会社との間で取引関係を有するもの
(ii) 親族が会社の取締役又は主要経営者に該当するもの
(iii) 他所において常勤で雇用されているもの又は20社を超えて監査役として選任されている個人または会計事務所のパートナー
(iv) 裁判所より不正行為に関し有罪宣告を受けたもので、かつ、同宣告日から10年が経過していないもの
(v) その子会社、関連会社等が禁止されている非監査サービスに従事しているもの

 

(d) 財務報告に関する内部統制及び不正行為の報告
 監査役は、財務報告に関する内部統制の有効性に関して、監査報告書において言及する必要があります(会社法143条3項(i))。ここにいう財務報告に関する内部統制とは、会社によって採用されている統制のとれた効率的な事業遂行を確保するためのポリシー又は手続きを意味するとされており、会社ポリシーの遵守、会社資産のセーフガード、不正行為や過失の予防・発見、会計記録の完備と正確性の確保、信頼性のある財務情報の適時の準備が含まれます(会社法134条5項(e)説明書)。

 また、Satyam粉飾決算事件の反省から、監査役が、その業務遂行の過程において、役員や従業員による1千万ルピー以上の不正行為が会社に対して行われたと信ずるに足りる理由があると認める場合、監査役はこれを中央政府に報告しなければならないこととされました(会社法143条12項、施行規則13条)。なお、不正行為が1千万ルピーに満たない場合、監査役は、監査委員会設置会社については同委員会に、非設置会社に関しては取締役会に不正行為を報告しなければなりません。

 

(e) 非監査業務提供の禁止

 監査役が多様な機能を果たすことによって発生しうる利益相反を排除するために、監査役を務める会社、その親会社又はその子会社に対して直接的又は間接的に提供が禁止される非監査業務が規定されました。具体的には投資アドバイザリーサービス、内部監査、マネジメントサービス、記帳代行サービス等が禁止されております(会社法144条)。 もし、同規制に反して非監査業務を自身が監査役を務める会社に提供した場合、非適格となり、監査役の地位から退くこととなります。これは、監査役の欠員として取り扱われます(会社法141条3項(i))。

 

(3) 内部監査
 内部監査は、組織のオペレーションを向上を目的とする、独立した、客観性を確保するためのコンサルティング活動であり、リスクのマネジメントやリスクコントロール及びガバナンス・プロセスの実効性や、財務的内部統制の実効性の評価及び向上を図るものです。

 会社法138条は、上場会社及び一定の会社において、勅許会計士、コスト会計士又は取締役会が定める専門家等が内部監査役として選任されることを求めており、会社従業員も内部監査役に就任することができます。

 内部監査役の業務範囲と機能に関しては、会社法及びその施行規則には規定されておらず、監査委員会又は取締役会が内部監査役と協議し、内部監査実施の範囲、機能、任期、手順について構築しなければなりません。

 

(4) 監査委員会の組成
 上場会社、払込資本金額1億ルピー以上又は総売上10億ルピー以上又は負債総額5億ルピー以上の公開会社は、独立取締役が多数を占める3名以上の取締役から構成される監査委員会を組成しなければならないとされ、(会社法177条1項)、また、議長を含む過半の取締役が、財務書類を読み解く能力を有するものでなければならないとされています。

 監査委員会は、会社監査役の選任、報酬及び任期に関して推薦する責任があり、監査役の独立性を検査し、財務報告に関する内部監査、リスクマネジメントシステムその他財務的メカニズムの安全性を評価しなければなりません。

 監査委員会は、監査役に、内部監査システムや、監査業務に関して意見を求めることができ、また、取締役会に提出される前に財務書類を検査することができます。また、法定監査または内部監査のマネジメントに関連する問題について、議論することもできます。

 

(5) 内部通報制度の構築
 会社法の改正に伴い、上場会社、公衆からの預かり金を実施している会社、銀行等金融機関から5億ルピー以上の借り入れを行っている会社に対して、会社の不正行為や反倫理的行為、懸念されるべき事項を、取締役または従業員が報告するための内部通報制度を構築する義務が導入されました(施行規則7条)。内部通報制度の導入にあたっては、同制度を利用したものが差別的取扱いを受けないために十分なセーフガードを設けることが求められております。

 

4 おわりに
 Satyamの粉飾決算事件をうけて、新しい会社法は、より透明性の高い監査システムを導入する共により高度な義務と説明責任を監査役に課し、インドにおけるコーポレートガバナンスの水準を向上させましたが、インド政府は、改正会社法には更なる改正が必要であるとする要請をなお受けており、インドにおける監査制度の今後の動向にはなお注視する必要があります。

 会社法の実際に運用していく上で発生する問題点に関して助言をするために2015年より設置された会社法委員会は、2016年2月に、専門家機関、産業団体、インド証券取引委員会、インド準備銀行といった規制実施団体から受領した情報をもとに作成したレポートをリリースしました。例えば、同委員会は、毎年の定時株主総会における監査役の不承認に株主総会普通決議が要求されるのに対して、任期満了前の監査役解任に中央政府の承認と株主総会特別決議が要求されるという不整合を理由に、監査役の承認手続きを廃止することを推奨しています。その後、2016年度会社法改正法案が、下院に提出されましたが、同法案では、株主総会による監査役承認手続きを廃止する条項が盛り込まれています。

 

棚瀬法律事務所 デリー駐在弁護士 遠藤 衛

ZEUS法律事務所(デリー)インド法弁護士 スニル ティヤギ

(本記事は、インドの法律事務所であるZEUS法律事務所と共同で執筆されています) 

以上

投稿者: 棚瀬法律事務所

棚瀬法律事務所03-6205-7930
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