2015.07.06更新

1. はじめに

 「国際相続」をテーマとして取り上げる場合,大きく,相続が発生する前(被相続人が死亡する前)のタックス・プランニングを対象とするものと,相続が発生した後(被相続人が死亡した後)の遺産分割手続等を対象とするものの,2つに分類することができます。以前の法務ノートで解説した「国外財産調書の提出制度」や「国外転出時課税制度(出国税)」は,相続が発生する前のタックス・プランニングに関連する内容でしたが,今回の法務ノートでは,相続が発生した後の遺産分割手続等に関連する内容について解説します。
 その場合も,さらに,相続税等の「税務」の問題と,相続法制や裁判手続等の「法務」の問題の,2つに分かれますが,今回は,法務の問題について解説をしていきます。

 

2. 渉外家事事件
(1) 3つの問題
 渉外家事事件とは,事件の当事者の中に外国人が含まれている場合の家事事件のことを意味しますが,広義では,国籍,住所地,婚姻挙行地,出生地,相続財産所在地等の法律関係を構成する諸要素が複数の国に関連する家事事件のことを意味します。
 渉外事件一般でもそうですが,渉外家事事件においても,①国際裁判管轄の存否,②準拠法の決定,③裁判の国際的効力の問題について検討をする必要があります。

 

(2) 国際裁判管轄
 国際裁判管轄の存否の問題とは,ある事件の裁判管轄がどの国の裁判所にあるかという問題で,当事者が外国人であったりした場合に,我が国の裁判所でその事件を扱ってよいかという問題です。
 民事訴訟法の改正によって国際裁判管轄の規定が追加されましたが,渉外家事事件に関する国際裁判管轄の規定はありません。現在,法制審議会の国際裁判管轄法制(人事訴訟事件及び家事事件関係)部会で検討されており,平成27年2月27日付け取りまとめとして中間試案が公表されています。
 法律の規定が存在しないことから,一般的には,当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念により,条理にしたがって解釈によって決定するのが相当とされています(最判昭和56年10月16日民集35巻7号1224頁等)。

 

(3) 準拠法の決定
 渉外家事事件を含む渉外事件の手続については,「手続は法廷地法による」という一般原則が妥当し,手続法は,原則としてその事件を取り扱う裁判所の所在地国の法によります。他方で,ある事件に適用する実体的な法基準については,「法廷地法による」といった一般原則は存在しないので,どの国の法を適用するかが問題になります。これが準拠法の決定の問題です。
 渉外事件に適用される実質法を「準拠法」といい,準拠法の選択方法を一般的に指定する法を「国際私法」といいます。我が国の国際私法としては,法の適用に関する通則法が平成19年1月1日から施行されており,その他に,扶養義務の準拠法に関する法律や,遺言の方式の準拠法に関する法律などがあります。
 国際私法の規定は,人の行為能力,法律行為の成立及び効力,婚姻,相続といった準拠法決定の基準となる法的概念を意味する「単位法律関係」と,目的物の所在地,当事者が選択した地といった特定の法域を指し示す要素である「連結点」によって形成されています。たとえば,通則法36条は「相続は,被相続人の本国法による」と規定しているところ,相続が単位法律関係で,被相続人の本国法が連結点になります。
 準拠法決定は,(ⅰ)法律関係の性質決定→(ⅱ)連結点の確定→(ⅲ)準拠法の特定→(ⅳ)準拠法の適用というプロセスで行われます。(ⅳ)準拠法の適用というプロセスで問題になるのが,公序(通則法42条)です。たとえば,当職が扱った事件として,外国人の養父と日本人の養子との離縁が問題になったケースで,通則法31条2項は「離縁は,前項前段の規定により適用すべき法による」と規定しており,前項前段である通則法31条1項前段は「養子縁組は,縁組の当時における養親となるべき者の本国法による」と規定しているところ,養親の本国法では離縁が認められていませんでしたが,縁組を継続し難い重大な事由があるにもかかわらず離縁を一切認めないことは「公の秩序又は善良の風俗に反するとき」(通則法42条)に該当するとして,養親の本国法が適用されずに日本法が適用され,離縁が認められたということがありました。

 

(4) 裁判の国際的効力
 ある国で下された判決・決定・審判については,原則として,その国の領域内でのみ効力を有することとなります。現在の国際秩序は主権国家体制ですので,当然の帰結といえます。しかし,外国で裁判が一度あったにもかかわらず,別の国では一切効力がなく,同一の紛争に関してもう一度裁判をしなければならないとすると,当事者に負担を強いることになります。そこで,外国判決の承認・執行について,規定がされています。
 我が国では,民事訴訟法118条に外国裁判所の確定判決の効力について定めた規定があり,また,民事執行法24条に外国裁判所の判決の執行判決について定めた規定があります。他方,渉外家事事件では,「判決」ではなく「審判」・「決定」という非訟事件の裁判が問題になることが多く,非訟事件の裁判は訴訟事件の判決とは法的概念が異なるため,民事訴訟法118条等の外国判決の承認・執行の規定が直接適用できません。もっとも,外国非訟事件裁判についても,一般に,条理に従い,我が国でその効力を承認することができるとされており,民事訴訟法118条を類推適用して外国非訟事件の裁判についても承認できると解されています。ただし,民事訴訟法118条が規定する要件のうちすべての要件を満たす必要があるのか,それとも,一部でよいのかについては,争いがあります。

 

3. 相続に関する諸外国の法制度
(1) はじめに
 上記のとおり,国際相続が問題になる場合には,①どこの国の裁判所が事件を扱うかという国際裁判管轄の問題,②どこの国の法律が適用されるかという準拠法の決定の問題,③外国で裁判があったとして,その裁判の効力が国内で認められるかという裁判の国際的効力の問題を検討する必要があります。
 そして,準拠法が外国法になった場合,以下に述べるとおり,相続の法制度は各国で異なることから,外国法の調査等が必要になってきます。

 

(2) いくつかのパターン
 国際相続の渉外家事事件として,日本の裁判所に係属する事件としては,遺産分割事件,相続放棄申述受理事件,相続財産管理人選任事件,遺言書の検認事件,遺言執行者選任事件等があります。
 前述のとおり,日本の裁判所が事件を扱うことができるかという国際裁判管轄の問題と,どこの国の法律が適用されるかという問題が生じます。パターンとしては,(ⅰ)日本の裁判所に管轄があり,日本法が適用される場合,(ⅱ)日本の裁判所に管轄があり,外国法が適用される場合,(ⅲ)外国の裁判所に管轄があり,日本法が適用される場合,(ⅳ)外国の裁判所に管轄があり,外国法が適用されるという4つがありますが,(ⅰ)の場合であっても,海外に相続人が住んでいたり,海外に財産があったりするために,外国との連携が必要になる場合があります。

 

(3) 各国の法制度
 日本経済新聞の「国際相続・国外財産プロフェッショナル」の記事でも解説されているとおり,諸外国の相続法制は,「包括承継主義」と「管理清算主義」の2つに分かれます。「包括承継主義」とは,被相続人の死亡によって,相続財産は積極財産であると消極財産(債務等)であるとを問わず,包括的に相続人に帰属するという考え方です。「管理清算主義」とは,被相続人の遺産は相続人には直接帰属せず,遺言又は裁判所により選任された遺産管理人にいったん帰属し,遺産管理人が管理清算した後,積極財産がある場合にのみ相続人に分配するという考え方です。包括承継主義は,日本,ドイツ,フランス,イタリア,スイスなど諸国で採用されており,管理清算主義は,アメリカ,イギリス,オーストラリアなどの英米法系の諸国で採用されています。
 さらに,相続に関する国際私法については,「相続統一主義」と「相続分割主義」の2つがあります。「相続統一主義」とは,不動産の相続と,預貯金・有価証券などの動産の相続であるとを問わず,相続関係を一体として規律しようとするものです。「相続分割主義」とは,不動産についてはその所在地法を適用し,動産については被相続人の本国法又は住所地法を適用するものです。相続統一主義は,日本やドイツなどが採用しており,相続分割主義は,アメリカ,イギリスなどが採用しています。
 包括承継主義であれば相続統一主義,管理清算主義であれば相続分割主義ということに必ずしもなるわけではなく,たとえば,フランスは,包括承継主義ですが相続分割主義を採用しています。また,管理清算主義を採用している場合,「遺産の管理清算」と「残余財産の分配」は別個の手続になり,国際私法に関する相続分割主義が問題になるのは,後者の「残余財産の分配」の手続のみで,遺産の管理清算については,不動産と動産を区別せずに遺産管理地法を適用することとされています。

 

(4) 我が国の国際私法
 通則法36条は,「相続は,被相続人の本国法による」と定め,相続財産の所在地や,相続財産が不動産か動産であるかにかかわらず,被相続人の本国法によって判断する相続統一主義を採用しています。
また,通則法37条第1項は,「遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による」と定めています。「遺言の成立及び効力」とは,遺言という意思表示自体の問題を指し,たとえば,遺言能力,遺言の意思表示の瑕疵という成立の問題や,遺言の意思表示の効力発生時期といった効力の問題が該当します。遺贈,遺言執行人の指定・選任・権限に関する問題は,遺言の成立及び効力の問題ではなく,通則法36条が規定する相続の問題になります。
 さらに,遺言を方式上なるべく有効として保護するため(遺言優遇の原則),1961年にハーグ国際私法会議で採択された「遺言の方式に関する法律の抵触に関する法律」を1964年に批准し,通則法の特別法として,「遺言の方式の準拠法に関する法律」が規定されています。そのため,この法律が定めるいずれかの1つに遺言の方式が適合するとき,遺言は方式に関して有効になるとされています。

 

(5) まとめ
 上記のとおり,相続の法制度は各国により異なっており,たとえば,管理清算主義を採用する国の法が準拠法となる場合,我が国には遺産管理人による遺産の管理清算に該当する手続が存在せず,我が国の相続財産管理人と英米法系の遺産管理とでは性質が異なるため,どのように遺産管理を行うかが問題になります。また,たとえば,遺言書の「検認」が問題になる場合,我が国の遺言の検認は,遺言書の有効性を判断するものではなく,遺言書の存在を確認し,その偽造・変造等を防止して,遺言書を保存するための一種の証拠保全手続とされているので,我が国の家庭裁判所では代行できないということもありえます。
 このように,国際相続においては,裁判管轄や準拠法が決まったとしても,法制度が異なりすぎて,相続の手続が円滑に進まないということが発生することもあります。


(弁護士 茨木 佳貴)

投稿者: 棚瀬法律事務所

2015.07.06更新

1. はじめに

 「国際相続」をテーマとして取り上げる場合,大きく,相続が発生する前(被相続人が死亡する前)のタックス・プランニングを対象とするものと,相続が発生した後(被相続人が死亡した後)の遺産分割手続等を対象とするものの,2つに分類することができます。以前の法務ノートで解説した「国外財産調書の提出制度」や「国外転出時課税制度(出国税)」は,相続が発生する前のタックス・プランニングに関連する内容でしたが,今回の法務ノートでは,相続が発生した後の遺産分割手続等に関連する内容について解説します。
 その場合も,さらに,相続税等の「税務」の問題と,相続法制や裁判手続等の「法務」の問題の,2つに分かれますが,今回は,法務の問題について解説をしていきます。

 

2. 渉外家事事件
(1) 3つの問題
 渉外家事事件とは,事件の当事者の中に外国人が含まれている場合の家事事件のことを意味しますが,広義では,国籍,住所地,婚姻挙行地,出生地,相続財産所在地等の法律関係を構成する諸要素が複数の国に関連する家事事件のことを意味します。
 渉外事件一般でもそうですが,渉外家事事件においても,①国際裁判管轄の存否,②準拠法の決定,③裁判の国際的効力の問題について検討をする必要があります。

 

(2) 国際裁判管轄
 国際裁判管轄の存否の問題とは,ある事件の裁判管轄がどの国の裁判所にあるかという問題で,当事者が外国人であったりした場合に,我が国の裁判所でその事件を扱ってよいかという問題です。
 民事訴訟法の改正によって国際裁判管轄の規定が追加されましたが,渉外家事事件に関する国際裁判管轄の規定はありません。現在,法制審議会の国際裁判管轄法制(人事訴訟事件及び家事事件関係)部会で検討されており,平成27年2月27日付け取りまとめとして中間試案が公表されています。
 法律の規定が存在しないことから,一般的には,当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念により,条理にしたがって解釈によって決定するのが相当とされています(最判昭和56年10月16日民集35巻7号1224頁等)。

 

(3) 準拠法の決定
 渉外家事事件を含む渉外事件の手続については,「手続は法廷地法による」という一般原則が妥当し,手続法は,原則としてその事件を取り扱う裁判所の所在地国の法によります。他方で,ある事件に適用する実体的な法基準については,「法廷地法による」といった一般原則は存在しないので,どの国の法を適用するかが問題になります。これが準拠法の決定の問題です。
 渉外事件に適用される実質法を「準拠法」といい,準拠法の選択方法を一般的に指定する法を「国際私法」といいます。我が国の国際私法としては,法の適用に関する通則法が平成19年1月1日から施行されており,その他に,扶養義務の準拠法に関する法律や,遺言の方式の準拠法に関する法律などがあります。
 国際私法の規定は,人の行為能力,法律行為の成立及び効力,婚姻,相続といった準拠法決定の基準となる法的概念を意味する「単位法律関係」と,目的物の所在地,当事者が選択した地といった特定の法域を指し示す要素である「連結点」によって形成されています。たとえば,通則法36条は「相続は,被相続人の本国法による」と規定しているところ,相続が単位法律関係で,被相続人の本国法が連結点になります。
 準拠法決定は,(ⅰ)法律関係の性質決定→(ⅱ)連結点の確定→(ⅲ)準拠法の特定→(ⅳ)準拠法の適用というプロセスで行われます。(ⅳ)準拠法の適用というプロセスで問題になるのが,公序(通則法42条)です。たとえば,当職が扱った事件として,外国人の養父と日本人の養子との離縁が問題になったケースで,通則法31条2項は「離縁は,前項前段の規定により適用すべき法による」と規定しており,前項前段である通則法31条1項前段は「養子縁組は,縁組の当時における養親となるべき者の本国法による」と規定しているところ,養親の本国法では離縁が認められていませんでしたが,縁組を継続し難い重大な事由があるにもかかわらず離縁を一切認めないことは「公の秩序又は善良の風俗に反するとき」(通則法42条)に該当するとして,養親の本国法が適用されずに日本法が適用され,離縁が認められたということがありました。

 

(4) 裁判の国際的効力
 ある国で下された判決・決定・審判については,原則として,その国の領域内でのみ効力を有することとなります。現在の国際秩序は主権国家体制ですので,当然の帰結といえます。しかし,外国で裁判が一度あったにもかかわらず,別の国では一切効力がなく,同一の紛争に関してもう一度裁判をしなければならないとすると,当事者に負担を強いることになります。そこで,外国判決の承認・執行について,規定がされています。
 我が国では,民事訴訟法118条に外国裁判所の確定判決の効力について定めた規定があり,また,民事執行法24条に外国裁判所の判決の執行判決について定めた規定があります。他方,渉外家事事件では,「判決」ではなく「審判」・「決定」という非訟事件の裁判が問題になることが多く,非訟事件の裁判は訴訟事件の判決とは法的概念が異なるため,民事訴訟法118条等の外国判決の承認・執行の規定が直接適用できません。もっとも,外国非訟事件裁判についても,一般に,条理に従い,我が国でその効力を承認することができるとされており,民事訴訟法118条を類推適用して外国非訟事件の裁判についても承認できると解されています。ただし,民事訴訟法118条が規定する要件のうちすべての要件を満たす必要があるのか,それとも,一部でよいのかについては,争いがあります。

 

3. 相続に関する諸外国の法制度
(1) はじめに
 上記のとおり,国際相続が問題になる場合には,①どこの国の裁判所が事件を扱うかという国際裁判管轄の問題,②どこの国の法律が適用されるかという準拠法の決定の問題,③外国で裁判があったとして,その裁判の効力が国内で認められるかという裁判の国際的効力の問題を検討する必要があります。
 そして,準拠法が外国法になった場合,以下に述べるとおり,相続の法制度は各国で異なることから,外国法の調査等が必要になってきます。

 

(2) いくつかのパターン
 国際相続の渉外家事事件として,日本の裁判所に係属する事件としては,遺産分割事件,相続放棄申述受理事件,相続財産管理人選任事件,遺言書の検認事件,遺言執行者選任事件等があります。
 前述のとおり,日本の裁判所が事件を扱うことができるかという国際裁判管轄の問題と,どこの国の法律が適用されるかという問題が生じます。パターンとしては,(ⅰ)日本の裁判所に管轄があり,日本法が適用される場合,(ⅱ)日本の裁判所に管轄があり,外国法が適用される場合,(ⅲ)外国の裁判所に管轄があり,日本法が適用される場合,(ⅳ)外国の裁判所に管轄があり,外国法が適用されるという4つがありますが,(ⅰ)の場合であっても,海外に相続人が住んでいたり,海外に財産があったりするために,外国との連携が必要になる場合があります。

 

(3) 各国の法制度
 日本経済新聞の「国際相続・国外財産プロフェッショナル」の記事でも解説されているとおり,諸外国の相続法制は,「包括承継主義」と「管理清算主義」の2つに分かれます。「包括承継主義」とは,被相続人の死亡によって,相続財産は積極財産であると消極財産(債務等)であるとを問わず,包括的に相続人に帰属するという考え方です。「管理清算主義」とは,被相続人の遺産は相続人には直接帰属せず,遺言又は裁判所により選任された遺産管理人にいったん帰属し,遺産管理人が管理清算した後,積極財産がある場合にのみ相続人に分配するという考え方です。包括承継主義は,日本,ドイツ,フランス,イタリア,スイスなど諸国で採用されており,管理清算主義は,アメリカ,イギリス,オーストラリアなどの英米法系の諸国で採用されています。
 さらに,相続に関する国際私法については,「相続統一主義」と「相続分割主義」の2つがあります。「相続統一主義」とは,不動産の相続と,預貯金・有価証券などの動産の相続であるとを問わず,相続関係を一体として規律しようとするものです。「相続分割主義」とは,不動産についてはその所在地法を適用し,動産については被相続人の本国法又は住所地法を適用するものです。相続統一主義は,日本やドイツなどが採用しており,相続分割主義は,アメリカ,イギリスなどが採用しています。
 包括承継主義であれば相続統一主義,管理清算主義であれば相続分割主義ということに必ずしもなるわけではなく,たとえば,フランスは,包括承継主義ですが相続分割主義を採用しています。また,管理清算主義を採用している場合,「遺産の管理清算」と「残余財産の分配」は別個の手続になり,国際私法に関する相続分割主義が問題になるのは,後者の「残余財産の分配」の手続のみで,遺産の管理清算については,不動産と動産を区別せずに遺産管理地法を適用することとされています。

 

(4) 我が国の国際私法
 通則法36条は,「相続は,被相続人の本国法による」と定め,相続財産の所在地や,相続財産が不動産か動産であるかにかかわらず,被相続人の本国法によって判断する相続統一主義を採用しています。
また,通則法37条第1項は,「遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による」と定めています。「遺言の成立及び効力」とは,遺言という意思表示自体の問題を指し,たとえば,遺言能力,遺言の意思表示の瑕疵という成立の問題や,遺言の意思表示の効力発生時期といった効力の問題が該当します。遺贈,遺言執行人の指定・選任・権限に関する問題は,遺言の成立及び効力の問題ではなく,通則法36条が規定する相続の問題になります。
 さらに,遺言を方式上なるべく有効として保護するため(遺言優遇の原則),1961年にハーグ国際私法会議で採択された「遺言の方式に関する法律の抵触に関する法律」を1964年に批准し,通則法の特別法として,「遺言の方式の準拠法に関する法律」が規定されています。そのため,この法律が定めるいずれかの1つに遺言の方式が適合するとき,遺言は方式に関して有効になるとされています。

 

(5) まとめ
 上記のとおり,相続の法制度は各国により異なっており,たとえば,管理清算主義を採用する国の法が準拠法となる場合,我が国には遺産管理人による遺産の管理清算に該当する手続が存在せず,我が国の相続財産管理人と英米法系の遺産管理とでは性質が異なるため,どのように遺産管理を行うかが問題になります。また,たとえば,遺言書の「検認」が問題になる場合,我が国の遺言の検認は,遺言書の有効性を判断するものではなく,遺言書の存在を確認し,その偽造・変造等を防止して,遺言書を保存するための一種の証拠保全手続とされているので,我が国の家庭裁判所では代行できないということもありえます。
 このように,国際相続においては,裁判管轄や準拠法が決まったとしても,法制度が異なりすぎて,相続の手続が円滑に進まないということが発生することもあります。


(弁護士 茨木 佳貴)

投稿者: 棚瀬法律事務所

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