2015.01.30更新

国際裁判管轄合意による絶対的強行規定の排除?

 

その1で触れた事例に戻ると、X社としては適用を受けたい日本法の規定が絶対的強行規定であればよいかというと、そうではない。X社には、準拠法がB国法であることの次のレベル問題として、B国裁判所に専属管轄合意しているという問題がある。Y社は二重の対策を敷いているのである。どういうことだろうか?

 

X社が日本の裁判所に訴えたとすると、たとえ準拠法がB国法でも日本法の絶対的強行法規の適用は受けられるにもかかわらず、B国に専属管轄合意をしてしまっているために日本の裁判所に訴えることが出来ない。日本の裁判所でなければ、準拠法を上書きしてまで日本の法規を絶対的強行法規として適用してくれるとは思われない[1]。つまり、日本法が準拠法でなくても裁判所によって日本法の観点を入れてもらいたいが、そもそも当該事件に日本の裁判所の手が及ぶのか、という問題である。

 

X社が求めている救済が日本法の絶対的強行規定だとしても、Y社はB国の専属裁判管轄合意が有効であるとして、日本の裁判所による裁判を拒否できるだろうか。逆に言えば、X社が専属管轄合意に反して日本で訴えを提起したら、日本の裁判所は裁判を行えるだろうか。 

 

専属管轄合意の排除に関する判例(チサダネ号事件)は生きているのか

 

B国に専属管轄合意しているにもかかわらず、X社がこれを無視して日本の裁判所に訴えた場合、日本の裁判所はどう判断するだろうか。この問題を検討するうえで最初に参考にするのは、チサダネ号事件最高裁判決(最判昭和50年11月28日民集29巻10号1554頁)[2]である。

 

チサダネ号判決は、管轄合意の効力の準拠法を法廷地の国際民事訴訟法(つまり、日本の国際民事訴訟法)とした原審を肯定したうえで、専属管轄合意の有効性要件をいくつか挙げ、さらに、「管轄の合意がはなはだしく不合理で公序法に違反するとき等」は無効になるとの見解を示した。この、「公序法に違反するとき等」にあたるか否かは、法定地法たる日本の国際民事訴訟法が当事者自治に任せることを許さない内国的価値を害しているか、という観点から判断することになる。

 

チサダネ号事件後、現在では民事訴訟法3条の2以下に国際裁判管轄についての規定が新設され、管轄合意についての規定[3]が設けられたが、公序法に反するとき等には管轄合意が無効になりうるとのチサダネ号事件判決の趣旨は現在も生きているのか否か明らかでない。しかし、立法により公序則等の譲れない内国的価値を放棄し、専属管轄合意による潜脱を許す趣旨ではないと思われ、チサダネ号事件判決が求めた公序法に違反するとき等という要件は、(そのままの文言でよいかは別として)生きていると考えるべきである[4]。

 

専属管轄合意で排除できない内国的価値とは

 

では、たとえB国に専属管轄合意があっても、そのような合意が無効になり、日本の裁判所が介入する[5]のはどのような場合か。この問題は、「管轄の合意がはなはだしく不合理で公序法に違反するとき等」として排斥されるような管轄合意とはどのような管轄合意かという問題であり、言い換えれば、管轄合意として当事者自治に委ねることが許されないような内国的価値とは何かということである。

 

内国的価値という言葉を使ったが、要するに合意で排除できないルールのことであり、強行法規の一部と言い換えてもよい。強行法規には、準拠法合意で排除できない絶対的強行法規とそうでない相対的強行法規があると述べた。準拠法合意で排除できない絶対的強行法規の範囲と、専属管轄合意で排除できない(専属管轄合意を無効とする)内国的価値(強行法規)の範囲は、同一だろうか。

 

専属管轄合意が、主としてそのような保護法規・公益既定の回避・潜脱を目的とする場合には当該合意は無効となり、回避潜脱目的がなくとも、結果として回避潜脱となる場合には当事者自治と予見可能性のバランスを踏まえて個別判断で無効となる場合があるという意見がある[6]。

 

事例で言えば、B国専属管轄合意が、X社が適用を受けたいと考えた日本法の保護法規・公益規定の適用を回避潜脱する目的で規定された場合や、日本法による保護を専属管轄合意で排除できないこと(日本の裁判所が専属管轄合意に反して後見的に介入し、日本法の規定を適用すること)について、X社やY社が事前に相当程度予見できた場合には、専属管轄合意が無効となりうるという趣旨だと思われる。

 

多少学問の世界に踏み込むが、実務にも役立つことを期待してこの見解について、その3でもう少し分析を加えたい。

 

(弁護士 戸田 知代)

 


 
[1]通則法11条や12条のように、他国の強行法規を絶対的強行法規として適用する旨を定めている国もあると思われるが、少なくともB国裁判所が適用するであろうB国法には、X社が日本法で適用を求めているような救済規定はないことが相談事例の問題の原因であり、当該救済を知らない法を有しているB国の裁判所が、当該救済を絶対的強行法規と考えることは想定しにくい。
[2]チサダネ号判決は、「ある訴訟事件についてのわが国の裁判権を排除し、特定の外国の裁判所だけを第一審の管轄裁判所と指定する旨の国際的専属的裁判管轄の合意は、(イ)当該事件がわが国の裁判権に専属的に服するものではなく、(ロ)指定された外国の裁判所が、その外国法上、当該事件につき管轄権を有すること、の二個の要件をみたす限り、わが国の国際民訴法上、原則として有効である」とし、さらに、「被告の普通裁判籍を管轄する裁判所を第一審の専属的管轄裁判所と定める国際的専属的裁判管轄の合意は、『原告は被告の法廷に従う』との普遍的な原理と、被告が国際的海運業者である場合には渉外的取引から生ずる紛争につき特定の国の裁判所にのみ管轄の限定をはかろうとするのも経営政策として保護するに足りるものであることを考慮するときは,右管轄の合意がはなはだしく不合理で公序法に違反するとき等の場合は格別、原則として有効と認めるべきである。」と判示している。
[3] 民事訴訟法3条の7は、管轄合意の方式(書面を要する)のほか、(管轄権に関する合意)同条4項に「外国の裁判所にのみ訴えを提起することができる旨の合意は、その裁判所が法律上又は事実上裁判権を行うことができないときは、これを援用することができない。」とさだめ、チサダネ号判決の挙げた同趣旨の要件(上記注7の(ロ)の要件)を拡張(管轄を有するか、という法律上の裁判権行使可能性のほか、紛争等による事実上の裁判権行使可能性もカバー)しつつ、消費者契約と労働契約に関しては弱者保護を定めているが、公序則等に反する合意の有効性についてはサイレントである。
[4] 日弁連のパブリックコメントでは、公序等あるいは著しい不合理による無効というチサダネ号判決の判旨は生きているとの点を明確化すべきとされ、法制審議会の部会でも、この判旨が生きているという事についてはコンセンサスが出来ていたことにつき、別冊NBL No. 138(商事法務、2012年)「国際裁判管轄ルールの法令化にあたって」18頁 参照。
[5]厳密には、専属管轄合意が無効となったからと言って、自動的に日本の裁判所に管轄権が認められるわけではない。管轄合意が無効という事は、管轄合意がなかったものとして、法定の管轄権を有する裁判所が当該案件を扱うべきという事になる。日本の裁判所に管轄権があるか否かは、法廷地となっている日本の国際民事訴訟法に照らして、日本に管轄権があるか否かを見て初めて判明する。
[6]手塚裕之、別冊NBL No. 138(商事法務、2012年)74頁「管轄権に関する合意(応訴管轄含む)」参照。

投稿者: 棚瀬法律事務所

2015.01.28更新

契約書を作成する際、準拠法条項と管轄条項にどれだけ注意を払っているだろうか?この二つは、実はビジネスの命運を分けるほど重大な条項である。このノートは、見過ごされがちな準拠法条項と管轄条項に注意を払うことがどれほど重要なのか、先行研究を踏まえながら分析し、日々の契約書作成や取引に直面する企業のこの問題に対する理解の一助となるようなノートにしていきたい。

 

事例1:代理店契約の突然解除!! 分水嶺は契約準拠法と管轄合意。

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企業にとって、事例1のような問題に直面することは珍しくない。外国の会社の日本代理店として事業を行っていたが代理店契約の更新を拒否された、外国メーカーに部品製造の下請けをしているが仕様変更があったとして製品を返品された、など、完全に日本国内の取引であれば継続的契約の解消に関する判例法理や下請法の保護がある事態で取引先との契約書を確認したら、当該契約はそのような保護を認めない外国法準拠だったことが判明して頭を抱える、などということは日常的に起きうる事態である。典型例は上のような事案であるが、日本法の保護を求めるX社の立場であることもあり、日本法を排除したいY社の立場であることも十分にあり得る。

 

Y社の防御は完璧か?X社は日本法の保護を求める手立てはないのか?

 

事例には二つの問題が内在している。一つは、日本法の保護は準拠法合意で完全に排除されるのかという準拠法レベルの問題、もう一つは、準拠法レベルで排除できない日本法の保護があるとして(準拠法が外国法でも、日本の裁判所が後見的に日本法を適用する場面があるとして)、そのような保護は、外国裁判所の専属管轄を合意すれば排除されるか、という国際裁判管轄レベルの問題である。まず、準拠法合意による法規の排除について考えたい。

 

 

契約で法規を排除する?

 

当事者の意思で適用を排除できる規定を任意規定と呼ぶのに対し、当事者の意思では排除できない法規は強行規定と呼ばれている。強行規定の代表例には民法90条の公序則、代理店契約書に解除できると書いてあっても信義に反する場合は解除が制限される継続的契約の終了に関する判例法理、法令の定めより賃借人に不利な一部の合意を無効とする借地借家法の規定などがある。

 

ここまでは、日本法が適用される私人間の関係についての話である。日本法が適用される限り当事者が日本の強行法規に反する合意をしても無効ということだが、では日本法が適用されないという合意(準拠法合意)をした場合にはどうなるのか。じつは、日本法を適用しないと合意しても、強制適用される日本法が存在する。絶対的強行法規である。

 

準拠法合意でも適用排除できない法規(絶対的強行法規)とは?

 

契約書で準拠法をB国法と合意したにもかかわらず、X社やY社に適用される日本法の規定とはどのような規定なのか。強行法規の全てが、準拠法合意によっても排除できないのか。これは、準拠法選択における当事者自治の範囲(契約当事者の合意による意思決定をどこまで尊重するのか[1])の問題である。

 

強行法規は、準拠法合意ですら排除できない(準拠法選択の如何にかかわらず適用される)公共性の強いものと、準拠法が日本法である場合にだけ強行的に適用されるものに分かれる。前者は絶対的強行法規、後者は相対的強行法規と呼ばれている。

 

事例に戻って言えば、X社が日本の裁判所に訴えを起こせると仮定すると、X社が適用を受けたいと思っている日本法が絶対的強行法規であれば、たとえB国法準拠の契約についてであっても保護を受けられ、逆にY社は、準拠法合意で日本法を排除していても、日本の裁判所で争われた場合には日本法の絶対的強行法規の適用は免れないという事になる。

 

何が絶対的強行法規で何が相対的強行法規なのかは(通則法11条や12条を除き)明文ではほとんど明らかにはされていないため裁判所の個別判断によらざるを得ない[2]。労働者保護に関する法規や、消費者保護に関する法規については、判例上、絶対的強行法規として扱われる例が多く、これを踏まえ、通則法11条及び12条で労働法や消費者保護に関する法の(一定の)強行規定は絶対的強行規定である旨定められた[3]。

 

法の適用に関する通則法42条について

 

準拠法合意に関連して、法の適用に関する通則法(平成十八年六月二十一日法律第七十八号)(以下、「通則法」という。)の42条について聞いたことがあるだろうか。

 

日本に関連のある事案(日本の裁判所が後見的に介入するだけの内国関連性がある事案)についてB国法が準拠法である場合に、当該B国法の内容が異常であり、その適用(の結果)が「公の秩序又は善良の風俗に反するときは、これを適用しない。」と定めている。しかしこれは、日本の公序良俗(例えば民法90条の公序良俗[4])が絶対的強行法規であることを定めた規定だろうか。厳密には違うと考える。

 

相談事例に通則法42条の適用があると仮定して、この規定をX社が援用した場合、以下のようになる。B国法の適用結果ではX社は保護されないが、この「保護されない」という結果が日本の公序良俗に反しているので、B国法の適用が排除される。注意すべきは、日本法が適用されるのではなく、B国法の適用が排除されるにとどまる点である。つまり、絶対的強行法規として「適用」されている保護法規とは、「そのような適用結果をもたらすB国法を適用してはいけない」というルールであって、適用を排除されたB国法の規定に対応する日本法の規定ではない。

 

具体的には、X社を保護しないB国法の適用が排除されるが、ではどのようにX社を保護すべきなのか、損害賠償額はどう算定すべきか等について、どこの国の法律を適用すべきなのか一から考え直さなければならないという事である。通則法42条適用後の処理についてここでは詳しく触れない[5]が、X社が日本法の規定による保護を受けたいのであれば、当該日本法の規定自体が絶対的強行法規であるとの主張を目指したいところである。

 

準拠法合意は当事者自治の実現

 

ここまでで、安易な準拠法合意で日本法を排除してしまったX社が、その後紛争時に日本なら当然受けられるだろう保護を受けることがどれほど大変なのか想像がつく事と思う。当事者自治に大きな地位が与えられている現在のビジネス界において、絶対的強行法規の範囲は非常に狭くなっていると考えるべきである。契約時に合意しておいて、思った保護がないなんて知らなかった、法が守ってくれるべきだ、という主張が合理的なのは、消費者の場合である。BtoB契約では、実際には相手方と交渉力に大きな差があったとしても、「分かっていて合意した」と言われても文句は言えない筋合いであるし、分かっていて合意する以上、合意の内容(当事者自治)は実現されてしかるべきなのである。

 

契約書のドラフトの際に、Miscellaneous条項はどうでもいいと思っていた、準拠法合意を譲る代わりにビジネス条件を優遇してもらう方がいいと思って安易に譲歩した、というようなことが、後々に重大な影響をもたらすことを、是非認識しておくべきである。

 

その2では、さらに進んで絶対的強行法規を合意で排除する方法に触れる予定である。

(弁護士 戸田 知代)



[1] 法の適用に関する通則法(平成十八年六月二十一日法律第七十八号)(以下、「通則法」という。)の7条は、「法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。」と定めて当事者が合意によって契約などの法律行為に適用される準拠法を選ぶことが出来る旨定めている。つまり、準拠法合意による日本法適用の排除は、日本法上許されていると言える。
[2]学説は利息制限法、特定融資枠契約に関する法律、会社法のいくつかの規定などについて様々な議論があることにつき道垣内正人「国際契約実務のための予防法学」(商事法務、2012年)36頁参照。
[3]通則法11条1項は、消費者が自分の常居所地法(注、日本法とは限らない)の強行規定による保護を求める場合には当該強行規定を適用する旨を定めている。通則法12条1項も、労働者が、労働契約の成立と効力に関して労働契約の最密接関連地法(注、日本法とは限らない)の強行規定による保護を求める場合には当該強行規定を適用する旨を定めている。
[4] 民法90条の公序則が、個人意思の自治に対する例外的制限として極めて狭い範囲で適用されることを想定して立法され、その後、根本理念説の登場により個人の意思と国家の介入により実質的な自由と平等と幸福の追求を実現するものとして積極的に適用されるべきものと解釈されていった歴史的背景につき、ジュリスト増刊「民法の争点」50頁以降参照。
[5]詳しい解説として、例えば横山潤「国際私法」(三省堂、2012年)100頁以下など参照。

 

投稿者: 棚瀬法律事務所

2015.01.19更新

 

 2013年9月12日よりその一部が施行された、インド新会社法は、現在、全470条中約60パーセントに該当する283条が施行されており、183条が未施行の状態にあります。現地報道によりますと、インド企業省(MCA)は、当該未施行部分の大部分を、2015年末までに施行する予定で動いております。

”政府関係筋によると、インド企業省は、Companies Act 2013(以下、インド新会社法)未施行部分約40パーセントの大部分について、2015年末までに、三段階のフェーズを経て、施行予定。
 第一段階として、まず、6ヶ月以内に、登録鑑定士(registered valuers)を含む鑑定(Valuation)に関する規定を施行し、第二段階として、2015年度末までに会社法委員会(Company Law Board)に関する37条文を、その後に、第三段階として、国内会社法審判所(National company Law Tribunal)に関する136条文が施行予定。”と報じられております(以上、現地経済紙 Economic Timesより)。

 2014年4月1日に新会社法中会社運営の重要部分に関する条項の多くが施行されて以来の、新会社法施行に関する動きとなります。
 未施行条文として、組織再編や会社清算 等の領域に関するものが残されているものの、これら組織再編や会社清算等の施行時期が当該報道において必ずしも明示されておりません。もっとも、第三段階における施行条文数が136条文とその数が多く、これらの手続きに国内会社法審判所の関与が予定されていることからすると、組織再編や会社清算等に関する条文に関しても、第三段階で施行されることが予定されていると推測されます。
 なお、第三段階に施行予定の条文に関しては、現在、法的障害のため、議論が停滞しているとも上記記事中にて報じられております。また、未施行条文の大部分を2015年末までに施行予定としているにもかかわらず、第三段階の施行時期については明示されておりません。

(弁護士 遠藤 衛)

投稿者: 棚瀬法律事務所

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