2017.10.20更新

1 はじめに

 ミャンマーが、アジア最後のフロンティアとして世界の注目を集めるようになって久しい。2011年3月の民主化以降、外国企業の投資が飛躍的に増加し、最近では特に2016年10月の米国による経済制裁の解除が外国投資を加速させています。
 ミャンマーは、中国、インド、タイ等と国境を接し、その中間に位置することから、それぞれの国を繋ぐ物流ルートとして期待されており、かつそれぞれのマーケットに直接輸出できる製造拠点としても有利な条件を有しています。このような地理的好条件、安くて豊富な労働力、マーケットとしての潜在力を評価され、2016年~2018年の多国籍企業有望投資先14位(UNCTAD世界投資報告2016)にランクインしています。
 また、法制度等のビジネス環境の整備も進んでいます。2016年10月18日にミャンマー投資法(新投資法)、2017年3月30日にミャンマー投資法施行細則が制定され、次いで2017年中に新会社法が制定される予定です。また、2016年10月25日発表の世界銀行調査において、起業手続改革進展度世界一になるなど、課題であったビジネス環境も急速に改善が進んでいます。
 ミャンマー人は親日的で勤勉な性格と言われ、ミャンマーには日本企業が進出する基盤があると考えられています。実際に、日本とミャンマーの官民共同で開発されたミャンマー初の経済特区であるティラワ経済特区が2015年9月に開業して以来、続々と日本企業が進出し、2017年2月には追加開発工事もスタートしています。また経済特区に限らず、ミャンマー日本商工会議所(JCCM)の会員数が、民主化以降7倍弱増えるなど日本企業の進出が急速に増えています。

2 ミャンマー投資法に基づく投資規制
 第一回は、ミャンマー投資法(以下「投資法」)に基づく投資規制について取り上げます。
(1)新しい投資法の制定
 2016年10月、投資法の制定により、内国民投資法及び外国投資法が廃止されました。これによって、従来異なる法律の適用を受けていた外国投資及びミャンマー人による投資は一つの法律の下、規制されることになりました。2017年3月末には、投資法の細則が施行され、ついに投資法に基づく運用が開始されました。
 なお、経済特区に関しては扱いが異なるため、このコラムでは取り扱いません。
(2)投資規制に関する4つのカテゴリー
 投資法の下では、すべての投資は、①禁止投資、②ミャンマー投資委員会の許可が必要な投資、③制限投資、④その他の投資の4つのカテゴリーに分類されます。
① 禁止投資とは文字通り、そもそも行うことが禁止される投資です。「ミャンマー国に危険・有害な廃棄物を持ち込む、又はもたらす可能性のある投資活動」や「ミャンマー国内の各民族の伝統的な文化や慣習に影響を与える可能性のある投資活動」などがこれにあたります(投資法41条)。
② 一定の大規模投資等については、その投資の実施に際してミャンマー投資委員会(Myanmar Investment Commission)、通称MICの許可を取得することが義務付けられています(投資法36条)。【良田:MIC許可が必要な投資は、多額の投資の他に、州をまたいで行われる投資、大規模な土地を使う投資、国境地帯で行われる投資、環境アセスメントの対象になる投資など幅広く規定されているのでここでは、それらをまとめて「一定の大規模投資等」と表現しましたが、わかりにくければ修正いたします。】具体的には、「予定投資額が1億ドルを超える投資」や「情報、通信、医療、バイオ等の技術、交通インフラ、エネルギーインフラ、都市開発インフラ、新都市、採掘資源または天然資源及びメディアの各セクターに対する投資で、予定投資額が2000万ドルを超えるもの」などがこれにあたります(投資規則3条)。
③ 制限投資とは、投資を行うに際して一定の制限が付されている投資をいい、(i)政府のみが行える投資、(ii)外国企業が行えない投資、(iii)外国企業が内資企業との合弁でのみ行える投資、(iv)関連省庁の承認が必要な投資に分類されます(投資法42条)。
 それぞれ(i)には9種類、(ii)には12種類、(iii)には22種類、(iv)には126種類の投資活動が規定されています(MIC通知2017年15号)。
 従来外資には禁止されてきた小売・卸売が、今回の改正で外資にも完全に開放されるのではないかと期待されていましたが、結果的には、ミニマーケット、コンビニエンスストア(床面積が1万平方フィート又は929平方メートル未満のもの)は(ii)外国企業が行えない投資として分類され、小売業、卸売業全般については(iv)商業省の承認が必要な投資に分類される形で規制されることとなりました。関連省庁の承認手続については、現在ガイドラインなども定められておらず、手続の明確化が期待されます。
 なお、(iii)については、内資企業の出資割合は20%以上でなければならないとされています(投資規則22条)。
④ その他の投資とは、上記①~③に含まれない投資を指し、その実施に際しては、上述のような制限はありません。もっとも、その他の法令で定められている規制には従う必要があります。

3 ミャンマー進出時の投資規制の検討
 ミャンマーへの進出に際しては、行おうとしている投資が上記2(2)のいずれのカテゴリーに当てはまるかについて、まずは投資法、投資規則及び関連通知を確認・検討することとなります。
 いずれに該当するかが明らかでない場合は、事前の投資審査手続を利用して、MICに照会することもできます(投資規則4章)。ただし、MICは、当該照会に対する回答に拘束されないため、実際に投資申請した段階でMICの見解が変更される可能性があります(投資規則32条)。

(弁護士 良田 郁也)

投稿者: 棚瀬法律事務所

2017.10.20更新

1 子会社に不祥事が生じた場合に親会社の取締役は責任を負うのか?
 昨今、その規模を問わず、子会社を含む企業グループを形成し、事業を子会社ごとに分配することによって、柔軟かつ多角的な経営を目指す企業も多いかと思います。
 特に、ビジネスの必要性から子会社の新設や他企業からの買収を急ぎ、子会社の管理が十分ではないままになっている、という親会社もあるのではないでしょうか。そのような子会社において不祥事が生じた場合、親会社の取締役は、どのような責任を負うのでしょうか。

 

2 親会社の取締役が子会社管理に関して負う責任とは?
 親会社の取締役は、国内外を問わず子会社の管理について責任を負っています。
 すなわち、親会社は子会社の株主であり、親会社の取締役には、会社の重要な資産としての子会社を管理し、親会社に損害を与えないようにする注意義務(善管注意義務〔会社法330条、民法644条〕ないし忠実義務〔会社法355条〕)があります。
 子会社において法令違反等の不祥事が発生した場合、具体的には、以下の2つの義務違反が問題となります。
 ① 子会社での違法・不当な行為を発見し、又はこれを未然に防止する注意義務(監視・監督義務)の違反
 ② 内部統制体制の構築義務の違反(会社法362条4項6号、同条5項)

 

3 子会社の監視・監督義務とは?
 親会社取締役会は、子会社について、企業集団における重要性、株式の所有の態様、子会社の業務に対する影響力や指図の有無及び程度、子会社で行われる行為の性質等に応じて、その業務を監督しなければならないという一般的規範が認められるべきであると解されています(江頭編『株式会社法体系』(有斐閣)101頁)。
 したがって、親会社の取締役は、善管注意義務の一内容として、子会社の違法・不当な行為を発見し、又はこれを未然に防止する注意義務(監視・監督義務)を負うと考えられます。具体的には、子会社の役職員の不正行為等の不祥事を知り又は知り得べきであった場合に、これを阻止するために必要な措置を採る義務です(東京地方裁判所商事法研究会『類型別会社訴訟Ⅰ(第3版)』(判例タイムズ社)257頁)。
 以上のような監視・監督義務は、下記4で述べる内部統制体制を適切に構築・維持していれば、信頼の原則が働き、特段の事情がない限り義務違反を問われないと解されます。
 別法人である子会社で生じた不祥事について認識可能性がある場合は限られるようにも思われますが、以下のような場合には、子会社において不祥事が生じ、それにより親会社に損害が生じたときは、親会社の取締役は、監視・監督義務を怠ったとして、善管注意義務違反の責任を問われるおそれがあります。

① 親会社の取締役が子会社に指図するなど、実質的に子会社の意思決定を支配したと評価しうる場合であって、かつ、親会社の取締役の右指図が親会社に対する善管注意義務や法令に違反するような場合(野村証券事件・東京地判平成13年1月25日判時1760号144頁)
② 親会社の取締役において不正を特に疑うべき事情があった場合や、内部統制体制が適切に機能しておらず、自社及び子会社の役職員からの情報を信頼することが許容される前提がないと評価されるような場合(例えば、本来報告されるべき情報が報告されていないような場合)

 また、実際に子会社に不祥事が生じた場合であって、監視・監督義務の違反が認められない場合であったとしても、不祥事への対応がまずければ、取締役の善管注意義務違反が認められることがあります。その判断枠組みとしては、有事発生の認識後、速やかに損害及び信用失墜を最小限にとどめるための適切な対応を講じたかどうかがポイントとなります(ダスキン事件・大阪高判平成18年6月9日判タ1172号271頁参照)。

 

4 内部統制体制の構築義務とは?
 株式会社の取締役会は、いわゆる内部統制体制(会社法362条4項)として、「当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制」(同項6号、同法施行規則100条1項5号)を構築する必要があります。これには、以下に関する体制が含まれます(同号イ~ニ)。

① 子会社の取締役等の職務執行に係る事項についての親会社への報告(同号イ)
② 子会社の損失の危険の管理(同号ロ)
③ 子会社の取締役等の職務の執行の効率性確保(同号ハ)
④ 子会社の取締役等及び使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することの確保(同号ニ)

 一般的には、上記①~③のために構築すべき体制としては、(i)子会社における業務の適正確保のための議決権行使方針の決定、(ii)親会社におけるグループ統括機構の設置、(iii)子会社の業務執行に関する親会社の承認体制の構築、(iv)親会社による内部監査の実施体制の構築、(v)取締役、監査役等の派遣等が想定されます。また、上記④の体制としては、(i)法令遵守マニュアルの作成や使用人相互間の適切な監督体制の構築、(ii)コンプライアンスマニュアル、倫理規定の作成・配布、(iii)コンプライアンスに関する教育・研修体制の構築、(iv)内部通報制度の設定等が挙げられます(落合誠一編『会社法コンメンタール8』(商事法務)230頁等参照)。
 このような内部統制体制は、会社が営む事業の規模、特性等に応じて整備する必要があります(大和銀行事件・大阪地判平成12年9月20日判タ1047号86頁参照)。どの程度の体制を整備すれば取締役の善管注意義務違反が問われないかについては、例えば、従業員の不正行為について、通常想定される不正行為を防止し得る程度の管理体制が構築・維持されているかどうかによって判断するとした判例があります(日本システム技術事件・最判平成21年7月9日判時2055号147頁)。
 内部統制体制の構築・維持が適切になされていない場合、子会社において不祥事が生じ、それにより親会社に損害(子会社株式の価値の毀損という損害を含みます)が生じたときは、親会社の取締役は、当該構築・維持を怠ったとして、善管注意義務違反の責任を問われるおそれがあります。

 

親会社の取締役として、子会社管理の責任を問われないようにするための体制作り、また、実際に不祥事が生じた場合の対応等、お気軽にご相談ください。

(弁護士 浦上俊一)

投稿者: 棚瀬法律事務所

2016.06.28更新

 インド商工省産業政策促進局(Department Of Industrial Policy & Promotion/DIPP)は、2016年6月24日付プレスノートNo.5(以下「プレスノート」)にて、 FDIポリシーの大幅な改定を公表しました。2016年度統合版FDIポリシー(以下「統合版FDIポリシー」)が公表されてから初の改定となりますが、改定内容が多岐に渡るため、インドにおける外国直接投資に大きな影響を与える内容となっています。本稿では、2016年6月24日付プレスノートによるFDI規制に関する変更点について解説します。

 

1 参入条件以外のその他投資条件  

 プレスノートは「参入条件以外のその他投資条件」として、3.7.2項を追加しました。  

 この改定によって、インドにおける支店、駐在員事務所、プロジェクトオフィスその他事業拠点の形成に関して、その主要事業が防衛産業、通信、民間セキュリティー又は情報・放送に該当する申請者が、外国投資促進委員会又は関連省庁の承認を事前に取得している場合、本来必要なインド準備銀行の承認の取得が不要となりました。

 

2 農業及び畜産  

 プレスノートは、「農業及び畜産」について規定する5.2.1項を改定しました。  

 これまでは、気候や栄養、健康等が統制されている、管理された状況下での畜産分野に対する外国直接投資のみ許されていましたが、プレスノートによって、管理された状況下以外での畜産が許されることになりました。

 

3 製造業  

 プレスノートは「製造業」について規定する5.2.5項を改定しました。  

 従来、統合版FDIポリシー5.2.5項は、FDIポリシーに従い製造業セクターに対する外国投資は自動ルートとすること、及び、製造業者は、政府の承認を得ることなく、卸売業者又は小売業者を通じて(eコマースを含む)インドで製造したその製品を販売することができる旨規定していました。  

 プレスノートは、この内容に加えて、FDIポリシーの取引業セクターに関する規定に反しない限り、インドで製造・生産された食料品に関するEコマースを含む取引業は、自動ルートにより100%の外国直接投資が認められること、食料品小売分野に対する外国直接投資の申請は、中央政府による承認検討の前に、DIPPによって審理されることを新たに規定しました。  

 従前許されていなかった、食料品の製造・小売分野に対するFDI規制が大きく緩和され、食料品分野への投資が大きく可解放されたことになります。

 

4 防衛産業  

 プレスノートは「防衛産業」について規定する5.2.6項を改定しました。  

 防衛産業分野に対する外国直接投資は、従前は49%までが自動ルート、これを超える場合はインドに近代的かつ「最新」(state-of-art)の技術を導入する可能性があることを条件に政府ルートによる投資が認められていました。  

 プレスノートは、当該導入条件について、インドに近代的技術を導入する場合又はその他特記されるべき理由が認められることを条件に、政府ルートによる投資が認められる旨改定しました。「最新」(state-of-art)という文言を削除している点及びその他特記されるべき理由が認められる場合にも49%を超える投資が認められうる点で条件を緩和したということができます。  

 また、これまで政府エージェントについてのみ許されていた、武器法(the Arms Act, 1959)上の小型武器及び弾薬の製造が許されることになりました。

 

5 放送キャリッジサービス  

 プレスノートは「放送キャリッジサービス」について規定する5.2.7.1項を改定しました。  

 これまでは、通信ネットワーク拠点、家庭向け直接放送、ケーブルネットワーク等の放送キャリッジサービス分野への外国直接投資は、49%まで自動ルート、これを超える場合には政府ルートとされていました。  

 プレスノートは、放送キャリッジサービス分野に関して、自動ルートにより100%の外国直接投資が認められると改定しました。ただし、関係省庁からライセンスまたは認可を求めることなく実施される、49%を超える新規外国直接投資であって、その結果、会社の所有形態を変更させ又は既存株主から新規外国投資家への持分の移転させるものに関しては、政府承認が必要とされています。

 

6 民間航空  

 プレスノートは、「民間航空」のうち、空港事業について規定する5.2.9.1項及び空港輸送サービスについて規定する5.2.9.2項について改定しました。  

 従来、74%を超える既存空港事業への外国直接投資は、政府承認が必要とされていましたが、プレスノートはこの点を改定し、自動ルートにより100%の外国直接投資が認められるようになりました。  

 また、定期航空輸送サービス及び国内定期旅客航空分野に関しては、これまで自動ルートにて49%まで外国直接投資が認められていましたが(非居住インド人に関しては100%)、プレスノートは出資比率上限を撤廃し、100%までの外国直接投資を認め、49%までは自動ルート、49%を超える場合には政府ルートによるものとしました(非居住インド人は100%まで自動ルート)。

 

7 民間セキュリティー  

 プレスノートは、「民間セキュリティー」について規定する5.2.13項を改定しました。  

 政府ルートにて認められていました。プレスノートは、出資比率上限を49%から74%まで引き上げ、49%までは自動ルート、49%から74%までは政府ルートによるものとしました。 8 単一ブランド小売業  プレスノートは、「単一ブランド小売業」について規定する5.2.15.3項を改定しました。  

 出資比率が51%を超える形で単一ブランド小売業分野に外国直接投資を行う場合、商品購入価値の30%はインド国内で調達されなければならないという制限が課されています(ソーシング・ノルマ)。この例外として、これまでは、単一ブランド小売業を営む企業の製品が最新かつ最先端(“state-of-art” and ”cutting-edge”)であり、現地での調達が不可能な場合には、政府はソーシング・ノルマを緩和することができるものと規定されていました。

 プレスノートでは、単一ブランド小売業を営む企業の製品が最新かつ最先端(“state-of-art” and ”cutting-edge”)であり、現地での調達が不可能な場合、ソーシング・ノルマが事業の開始(第一店舗の開店)から3年間適用されないものとされました。

 

8 製薬業  

 プレスノートは、「製薬業」について規定する5.2.27項を改定しました。  

 従前は、製薬業分野に対する外国直接投資は、新規事業に関しては自動ルートにて100%までの出資が認められていたのに対して、既存事業へ投資は政府ルートにて100%までの出資が認められていました。  

 プレスノートは、既存の製薬業への投資条件を緩和し、74%までは自動ルート、74%を超える場合は政府ルートによるものと改定しました。ただし、製薬業分野における既存事業への投資条件として、製品水準及び研究開発費の維持、技術移転情報の報告義務が新たに課されました(5.2.27.3(iv)(a)~(c))。

 

 2016年6月24日付プレスノートNo.5の原文はこちら

 

棚瀬法律事務所 デリー駐在弁護士 遠藤 衛

投稿者: 棚瀬法律事務所

2016.06.27更新

相談内容:弊社は、医療機器をインドで製造・販売している会社です。弊社の顧客には、病院のみならず個人も含まれています。先日地域フォーラムという機関を通して、代理店から弊社商品を購入した個人のお客様から、弊社商品を使用したところ怪我をしたという苦情が届きました。製造物責任が問題になるのかと推測しますが、製造物責任をはじめとするインドの消費者保護法制はどのようになっているのでしょう。

 

1 インド消費者保護法制  

 インドにおける消費者保護は、主に消費者保護法(Consumer Protection Act, 1986)によって図られていますが、問題となる商品によっては、別途個別法による消費者保護が図られることもあります。なお、インドには日本の製造物責任法に相当する法律は存在しません。

 相談事例のケースでは、特に消費者保護法のほか、医薬・化粧品法(Drugs and Cosmetics Act, 1940)、も問題になりえますが、本稿ではインド消費者保護制度の中心となる消費者保護法に焦点を当てて解説します。

 

2 消費者保護法  

 日本の消費者保護法が実体法的側面に重きが置かれているのに対して、インドの消費者保護法は、消費者問題に関する特別な紛争解決手続きを規定することで消費者の保護を図っています。インドでは通常認められていない懲罰的賠償や消費者のクラスアクションといった企業責任を加重させる制度を導入している点に特徴があります。

 インドにおける消費者問題は、時に企業に対して甚大な損失を及ぼすため、軽視することはできません。代表的な事例として、スイス食品大手のネスレのケースが挙げられます。2015年に、インド食品安全基準局は、ネスレが販売する、インドの国民的インスタントヌードルであるMaggiに規定量を超える鉛が含有されているとして、その販売を差止めするとともに、消費者保護法に基づき、約64億ルピーに及ぶ補償金を求めるクラスアクションを提起し、インドでビジネスを行う企業に衝撃を与えました。

 消費者問題を検討するに際しては、誰が、どのような理由に基づいて、どういった請求をしてくるのかという点や、手続の概要を理解することが理解することが有益です。以下、消費者保護法が定める手続きの申立人、審理対象となる苦情や手続きの概要について解説します。

 

(1) 申立人  

消費者保護法は、同法が規定する特別手続きを利用できる申立人(complainant )の範囲として、以下のように規定しています(消費者保護法2条1項(c))

  

(i) 消費者  

 なお、消費者には、対価を支払って商品を購入したものや購入者に使用を許諾された商品のユーザーが含まれますが、再販売目的といった商業目的で商品を購入したものは消費者に含まれません。また、消費者にはサービスのユーザーや、当該ユーザーからサービスの利用を許諾されたものを含みますが、商業目的でサービスを利用するものは消費者から除外されています(消費者保護法2条1項(d))

(ii) 会社法上の登記をされている非営利消費者団体

(iii) 中央政府又は州政府

(iv) 共通の利益を有する1名以上の消費者

(v) 死亡した消費者の相続人又は代理人  

 

 このように、消費者保護法は商業目的がある場合を除いて、広く商品購入者又はサービス利用者が消費者に含まれると規定し、申立人適格を認めています。また、共通の利益を有する複数の消費者に対して申立人適格を与えることで、クラスアクションを認めています。特に中央政府が動くようなケースでは、係争額も大きくなりやすく、企業にとって大変なリスクとなります。

 相談者のケースでは、医療機器の購入者として病院や個人が想定されていますが、病院は、商業目的のもと医療機器を購入することが通常であり、苦情申立人に該当しないこととなります。これに対して、医療機器を購入した個人は、商業目的を備えないことが通常ですので、申立人に該当し得ます。

 

(2) 審理対象となる苦情

 審理対象を正確に理解することは、消費者保護法がどのような問題を消費者紛争と位置付けているかを把握することにつながり、ひいては消費者紛争の予防にも資するといえ、特に重要です。

 消費者保護法は、申立人が書面で行う以下の申立てが、審理対象となる苦情(complaint)に該当すると規定しています(消費者保護法2条1項(c))。

 

(i) トレーダー又はサービスプロバイダーによる不公正取引又は制限的取引

 なお、ここにいう不公正取引として、優良誤認表示といった不当表示又は不実表示、販売する意図のない割引価格の提示、商品コストの上昇を意図した商品の貯蔵、破棄、販売拒絶や模造品の販売等が列挙されています。

 「制限的取引」とは消費者に不当なコストや制限を課す価格操作や配送条件の設定等を意図した取引を意味し、配送遅延のコストを消費者に負担させる行為や、特定の商品購入の条件として他の商品の購入を要求する行為が含まれます。

(ii) 商品の欠陥

(iii) サービスの欠陥

(iv) トレーダー又はサービスプロバイダーによる法定価格、商品のパッケージ記載価格又は当事者が合意した価格等を超える代金請求

(v) 法が規定する安全基準に違反し、その公衆に対する販売が生命又は安全に危害を及ぼしうる商品、又はトレーダーが通常要求される注意を払えば公衆に対する危険性が予見可能であって、その公衆に対する販売が生命又は安全に危害を及ぼしうる商品

(vi) サービスプロバイダーが通常要求される注意を払えば公衆に対する危険性が予見可能であって、その公衆に対するサービスの提供が公衆の生命又は安全に危害を及ぼしうるサービス  

 

 このように、消費者保護法は多岐にわたる消費者紛争類型を苦情として認めることで、消費者の保護を図っています。なお、トレーダーには、商品の販売者はもとより、ディストリビューター、さらには製造業者が含まれるとされており(消費者保護法2条1項(J))、製造物の欠陥によって損害を被った場合、これらの者を相手取り紛争解決を図ることが可能です。相談者のケースは、このカテゴリーによって苦情を申し立てたものと考えられます。

 

(3) 地域フォーラムにおける手続概要

 消費者保護法は、消費者紛争を解決する特別な紛争解決機関として地域フォーラム、州フォーラム、ナショナル・コミッションについて規定しています。苦情の申立ては、その申立額等に応じて、地域フォーラム(申立額2,000,000ルピー以下)、州フォーラム(申立額2,000,000ルピー超え10,000,000ルピー以下)又はナショナル・コミッション(申立額10,000,000ルピー超え)にて審理されます。地域フォーラムにおいて下された命令に対しては州フォーラムに、州フォーラムにおいて下された命令はナショナル・コミッションにそれぞれ上訴可能です。

 地域フォーラムにおける手続具体例は以下のとおりです。まず、商品の苦情が問題となっているケースでは、まず地域フォーラムは、通常申立てを受理した日から21日以内に申立てられた苦情に正当性があるか否かに関して判断します(消費者保護法12条3項)。正当性があると判断された場合、地域フォーラムは、苦情の相手方に対して、苦情が認定された日から21日以内に、正当性があると認定された苦情のコピーを送付すると共に、原則30日以内の当該苦情に対する意見提出を命じなければなりません(消費者保護法13条1項)。

 その後、証拠調べ類似の手続が実施されます。試験所によって実施される鑑定類似の手続が導入されている他、いずれの手続も準司法的な手続となっており(同5項)、民事訴訟法における証人の召喚や証人尋問手続に関する規定が準用されております(同4項)。地域フォーラムは、申立苦情の相手方からの意見の提出を受けてから、原則として3ヶ月以内(試験所による検査が必要な場合、欠陥等の有無のための検査が必要なため、原則として5ヶ月以内)に苦情に対して判断を下さなければなりません(同3A項)。

 審理の結果、苦情に理由があると判断された場合、地域フォーラムは、以下の一つ又は複数の命令を下します(消費者保護法14条1項)。

 

(a) 試験所によって認定された係争商品に存在する欠陥の除去

(b) 欠陥の存在しない新品の類似商品との交換

(c) 申立人に対する、申立人が支払った代金の返金

(d) 相手方の過失によって消費者に発生した損失又は傷害に対して地域フォーラムが認定した補償金の支払い(地域フォーラムが適切と判断した場合には、懲罰的賠償も認定可能)

(e) 係争商品又はサービスに存在する欠陥の除去

(f) 不公正取引又は制限的取引の停止

(g) 販売のための有害商品提供の停止

(h) 販売中の有害商品の回収

(ha) 有害製品の製造停止又は有害サービスの提供停止

(hb) 多数の消費者に損失又は傷害が生じているものの、その消費者を容易に特定出来ない場合、地域フォーラムが認定した補償金の支払い

(hc) 誤解を招く広告を発行した相手方の費用負担において、当該誤解を招く広告の影響を中立化させる正しい広告の発行

(i) 適切な経費の支払い

 

 このように、消費者保護法は比較的短期間で終結する紛争解決手続を規定するとともに、地域フォーラム等に対して、柔軟な紛争解決手段を与えています。  相談者のケースでは、地域フォーラムが申立てられた苦情に理由があると判断した場合、代替商品の提供はもとより、製品によって生じた傷害の懲罰的賠償、さらには市場に出回っている製品の回収が命じられるおそれもなしとは言えません。

 

3 その他個別法による消費者保護  

 消費者保護法は、法が規定する安全基準に違反し、その公衆に対する販売が生命又は安全に危害を及ぼしうる商品の販売を苦情として認めていますが(消費者保護法2条1項(c)(v))、相談者との関係で問題となっている医療機器の安全基準には、医薬・化粧品法に規定があり、医薬・化粧品法の定める安全基準によって消費者の保護が図られていることとなります。

 

棚瀬法律事務所 デリー駐在弁護士 遠藤 衛

投稿者: 棚瀬法律事務所

2016.06.11更新

 

1 インドにおける粉飾決算と監査役の責任

 近時、日本において粉飾決算とこれにまつわる監査役の義務及び責任が取り沙汰され、議論されておりますが、インドにおいても同様の議論が存在します。その端緒が2009年に発生したSatyam Computer Services Limited(以下「Satyam」)の粉飾事件です。Satyam粉飾事件の発覚により、監査役の義務と責任のあり方が積極的に議論するに至り、また、同事件は2013年に改正されたインド会社法にも大きな影響を与えております。本稿では、日本会社法における監査制度と対比しつつ、Satyam事件の概要と新会社法における監査役の義務と責任について俯瞰します。

 

2 Satyam粉飾決算事件の概要

 2009年1月7日、インドの著名IT企業であるSatyamのCEOであるRamalinga Raju氏が辞職するとともに同社が粉飾決算を行っていることを告白しました。その粉飾は約7年間にわたって行われており、粉飾額は約11億米ドルに及びました。そして、この粉飾の結果、同CEOは懲役7年の宣告をうけています。

 同事件において、会計士による意図的な粉飾の見逃しが認定されたわけではないものの、粉飾を見抜けなかったことに重過失があったものとして、インド勅許会計士協会は、同社の監査に従事していた4名の勅許会計士に対し、生涯にわたって勅許会計士活動を禁止する処分を下すとともに、そのうち監査部門代表パートナーに約80万米ドルの最高額の経済制裁を課しました。また、同事件をきっかけに、Confederation of Indian Industries(CII)等の産業団体がコンプライアンスに関する提言を行い、インド企業省がコーポレートガバナンスに関する任意ガイドラインを制定するなど、監査役の役割と責任に関する議論が活発化しました。Satyam粉飾決算事件は、不正会計や非倫理的監査といったインドにおけるコーポレートガバナンス実務の欠点を浮き彫りにしたのです。

 これらの議論を踏まえ、2013年に大幅に改正されたインド会社法では、監査に関するコンプライアンス水準が大幅に引き上げられるに至りました。

 

3 インド会社法における監査制度

 

(1) 日本会社法との監査制度の差異
 インド新会社法下における監査制度の中身に踏み込む前提として、日本とインドの監査制度に関する主要な差異について説明します。

 まず、日本では、全ての会社に対して公認会計士等の外部の専門家に会計監査を実施させる義務が課されるわけではありませんが、インドにおいては、全ての会社が勅許会計士(日本における公認会計士)または会計事務所を監査役として選任し、会計監査を実施させ、しかもその結果を中央政府に報告しなければならない点で大きく異なります。

 また、日本における監査の範囲は、監査役に取締役の行為の差し止め権限に象徴されるように、会計監査のみならず業務監査にも及びますが、インドにおける監査役の監査範囲は会計監査に焦点が当てられており、監査役の業務範囲が異なります。

 

(2) 法定監査
 このように、監査役の主な役割が会計監査にあるため、インド会社法における監査制度は法定監査と呼ばれる会計監査を中心に設計されております。 監査役は、会社の財務書類や会計帳簿が法の定める会計基準に従って作成されていることを確実にするために監査報告書を作成しなければならず(会社法143条2項)、これを法定監査といいます。

 新会社法は第10章の139条から147条にかけて、法定監査に関連して監査役の選任、解任/辞任、適格、資格、非適格について規定しております。改正に伴い、監査役の役割と責任に関する新たな条文が導入されており、また、監査役の義務や非適格要件の範囲を拡大しております。

 

(a) 監査役の選任、解任、補充
 全ての会社は、監査役を選任しなければならず(会社法139条1項)、 原則としてその選任は株主総会普通決議によって行われます。具体的には、取締役会は、次期監査役を選任するために、勅許会計士協会等による処分の有無、監査役としての適格の有無、その会社の規模や要求に見合った経験や技能の有無を考慮した上、監査役候補者の名称を、定時株主総会において株主に対し推薦し(施行規則3条1項、3項)、これを受けて株主は定時株主総会において監査役を選任することとなります。なお、監査役は毎年の定時株主総会において株主の承認を受けなければなりません(会社法139条1項第1但書)。

 新たに設立された会社の場合、会社登記から30日以内に取締役会が最初の監査役を選任しなければなりませんが、これを怠った場合、当該取締役会は会社の株主等に当該事実を通知し、同株主等が90日以内に臨時株主総会によって最初の監査役を選任しなければなりません。当該監査役は最初に行われる定時株主総会の終結まで監査役の職務に服します(同条6項)。

 これに対して、任期満了前に監査役を解任するためには、非常に厳格な手続要件が要求されております。具体的には、中央政府の事前承認を得た上で、聴聞の機会の付与を前提とする株主総会特別決議を経る必要があります(会社法140条1項)。

 また、監査役に欠員が出た場合、取締役会は30日以内に取締役会決議によって監査役を選任しなければなりませんが、同欠員が監査役の辞任によって発生した場合、取締役会の選任に加えて、取締役会の推薦から3ヶ月以内に開催される株主総会の承認決議を得なければなりません(139条8項)。

 

(b) 監査役の任期
 監査役の任期は原則として5年1期とされております(139条1項)。 ただし、Satyam粉飾決算事件を受けて、同一監査役によって長期間におよぶ監査が実施されることによって重大な不正会計が行われる危険を避けるため、一定規模以上の会社に対して、監査役の再任に関する規制が導入されました。

 具体的には、(i)上場会社、(2)払込資本金額が1億ルピー以上の公開会社、(iii)払込資本金額が2億ルピー以上の非公開会社、(iv)公的借入等が5億ルピー以上の会社においては、5年1期(会計事務所の場合には再任も含め5年2期の計10年まで伸長可能)の任期満了後、5年間は当該監査役をその会社の監査役として選任することはできないこととされました(ローテーション義務。139条2項、施行規則5条)。なお、ローテーションの後任として、同一の関連組織に属する個人または会計事務所を監査役として選任することは許されません(施行規則6条3項2号)。

 

(c) 監査役の資格要件と非適格要件
 勅許会計士又はインドにおけるパートナーの過半数が勅許会計士である会計事務所(LLPを含む)が、監査役に就任することができます(会社法141条1項2項)。 旧会社法では、法人(LLPを除く)又は会社の役員若しくは従業員又は会社、その親会社、その子会社又はその関連会社に対して負債有するもの若しくは1,000ルピーを超えるその株式その他利害関係を有するものは、その会社において監査役として選任される適格を有しないとされておりました。

 しかし、法定監査実施における更なる独立性を確保するために、会社法は以下の法定監査人選任に関する非適格要件の範囲を拡大しました(141条3項)。

(i) 会社、その子会社、その親会社又はその関連会社との間で取引関係を有するもの
(ii) 親族が会社の取締役又は主要経営者に該当するもの
(iii) 他所において常勤で雇用されているもの又は20社を超えて監査役として選任されている個人または会計事務所のパートナー
(iv) 裁判所より不正行為に関し有罪宣告を受けたもので、かつ、同宣告日から10年が経過していないもの
(v) その子会社、関連会社等が禁止されている非監査サービスに従事しているもの

 

(d) 財務報告に関する内部統制及び不正行為の報告
 監査役は、財務報告に関する内部統制の有効性に関して、監査報告書において言及する必要があります(会社法143条3項(i))。ここにいう財務報告に関する内部統制とは、会社によって採用されている統制のとれた効率的な事業遂行を確保するためのポリシー又は手続きを意味するとされており、会社ポリシーの遵守、会社資産のセーフガード、不正行為や過失の予防・発見、会計記録の完備と正確性の確保、信頼性のある財務情報の適時の準備が含まれます(会社法134条5項(e)説明書)。

 また、Satyam粉飾決算事件の反省から、監査役が、その業務遂行の過程において、役員や従業員による1千万ルピー以上の不正行為が会社に対して行われたと信ずるに足りる理由があると認める場合、監査役はこれを中央政府に報告しなければならないこととされました(会社法143条12項、施行規則13条)。なお、不正行為が1千万ルピーに満たない場合、監査役は、監査委員会設置会社については同委員会に、非設置会社に関しては取締役会に不正行為を報告しなければなりません。

 

(e) 非監査業務提供の禁止

 監査役が多様な機能を果たすことによって発生しうる利益相反を排除するために、監査役を務める会社、その親会社又はその子会社に対して直接的又は間接的に提供が禁止される非監査業務が規定されました。具体的には投資アドバイザリーサービス、内部監査、マネジメントサービス、記帳代行サービス等が禁止されております(会社法144条)。 もし、同規制に反して非監査業務を自身が監査役を務める会社に提供した場合、非適格となり、監査役の地位から退くこととなります。これは、監査役の欠員として取り扱われます(会社法141条3項(i))。

 

(3) 内部監査
 内部監査は、組織のオペレーションを向上を目的とする、独立した、客観性を確保するためのコンサルティング活動であり、リスクのマネジメントやリスクコントロール及びガバナンス・プロセスの実効性や、財務的内部統制の実効性の評価及び向上を図るものです。

 会社法138条は、上場会社及び一定の会社において、勅許会計士、コスト会計士又は取締役会が定める専門家等が内部監査役として選任されることを求めており、会社従業員も内部監査役に就任することができます。

 内部監査役の業務範囲と機能に関しては、会社法及びその施行規則には規定されておらず、監査委員会又は取締役会が内部監査役と協議し、内部監査実施の範囲、機能、任期、手順について構築しなければなりません。

 

(4) 監査委員会の組成
 上場会社、払込資本金額1億ルピー以上又は総売上10億ルピー以上又は負債総額5億ルピー以上の公開会社は、独立取締役が多数を占める3名以上の取締役から構成される監査委員会を組成しなければならないとされ、(会社法177条1項)、また、議長を含む過半の取締役が、財務書類を読み解く能力を有するものでなければならないとされています。

 監査委員会は、会社監査役の選任、報酬及び任期に関して推薦する責任があり、監査役の独立性を検査し、財務報告に関する内部監査、リスクマネジメントシステムその他財務的メカニズムの安全性を評価しなければなりません。

 監査委員会は、監査役に、内部監査システムや、監査業務に関して意見を求めることができ、また、取締役会に提出される前に財務書類を検査することができます。また、法定監査または内部監査のマネジメントに関連する問題について、議論することもできます。

 

(5) 内部通報制度の構築
 会社法の改正に伴い、上場会社、公衆からの預かり金を実施している会社、銀行等金融機関から5億ルピー以上の借り入れを行っている会社に対して、会社の不正行為や反倫理的行為、懸念されるべき事項を、取締役または従業員が報告するための内部通報制度を構築する義務が導入されました(施行規則7条)。内部通報制度の導入にあたっては、同制度を利用したものが差別的取扱いを受けないために十分なセーフガードを設けることが求められております。

 

4 おわりに
 Satyamの粉飾決算事件をうけて、新しい会社法は、より透明性の高い監査システムを導入する共により高度な義務と説明責任を監査役に課し、インドにおけるコーポレートガバナンスの水準を向上させましたが、インド政府は、改正会社法には更なる改正が必要であるとする要請をなお受けており、インドにおける監査制度の今後の動向にはなお注視する必要があります。

 会社法の実際に運用していく上で発生する問題点に関して助言をするために2015年より設置された会社法委員会は、2016年2月に、専門家機関、産業団体、インド証券取引委員会、インド準備銀行といった規制実施団体から受領した情報をもとに作成したレポートをリリースしました。例えば、同委員会は、毎年の定時株主総会における監査役の不承認に株主総会普通決議が要求されるのに対して、任期満了前の監査役解任に中央政府の承認と株主総会特別決議が要求されるという不整合を理由に、監査役の承認手続きを廃止することを推奨しています。その後、2016年度会社法改正法案が、下院に提出されましたが、同法案では、株主総会による監査役承認手続きを廃止する条項が盛り込まれています。

 

棚瀬法律事務所 デリー駐在弁護士 遠藤 衛

ZEUS法律事務所(デリー)インド法弁護士 スニル ティヤギ

(本記事は、インドの法律事務所であるZEUS法律事務所と共同で執筆されています) 

以上

投稿者: 棚瀬法律事務所

2016.03.03更新

1 はじめに

 「国際相続『国外財産調書の提出制度』と『国外転出時課税制度(出国税)』」をテーマとして,法務ノートを以前書きました。「国外財産調書」以外にも国外財産に関して提出しなければならない書類があり,それらの書類を元に税務当局は海外資産を捕捉することになります。
以下では,どのような法制度があるかについて,概説を述べます。

 

2 法定調書
 「所得税法」,「相続税法」,「租税特別措置法」及び「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律」の規定により税務署に提出が義務づけられている資料を「法定調書」といいます。所得税法に規定されている「給与所得の源泉徴収票」が馴染みのあるものですが,平成27年4月1日現在の法令で61種類の法定調書が規定されています。
 そのうち,「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律」によって規定されている法定調書は,新たに「財産債務調書」が創設されたことによって「国外送金等調書」,「国外財産調書」,「国外証券移管等調書」,「財産債務調書」の4種類あり,財産債務調書制度は平成28年1月1日から施行されています。

 

3 国外送金等調書
 国外へ送金したり,国外からの送金を受領したりする者は,金融機関に対して,住民票の写し等の本人確認書類を提示するとともに,氏名や住所を記載した告知書を提出する必要があります(法3条)。そして,金融機関は,告知書の提出を受けて,当該顧客の「国外送金等調書」を作成して税務署に提出する必要があります(法4条)。この規定は,平成10年から施行されていますが,平成21年4月から,国外送金等調書の提出基準は,200万円超から100万円超に引き下げとなっています(施行令8条)。
 平成25事務年度の提出枚数は631万枚で,制度が導入された平成10事務年度の提出枚数の244万枚に比べて約2.6倍となっています。税務当局は,この国外送金等調書のデータに基づき,「お尋ね」という書類を送付しており,任意ではありますが回答書の作成について協力を求められます。

 

4 国外証券移管等調書
 平成26年度税制改正において,国境を越えて有価証券の証券口座間の移管を行った場合に調書の提出を義務付ける「国外証券移管等調書制度」が創設されました(法4条の2及び4条の3)。
 この制度は,国外送金等調書制度と同じく,一定の場合に金融機関に告知書を提出し,金融機関がその告知書に基づき調書を税務署に提出しなければならないという制度です。一定の場合とは,国内証券口座から国外証券口座への有価証券の移管を行う場合(国外証券移管)又は国外証券口座から国内証券口座への有価証券の受入れを行う場合(国外証券受入)が該当します。
 海外に資産を移転させる場合,資金を送金する方法であれば国外送金等調書によって税務当局はその事実を把握できますが,証券会社を利用して有価証券の形で移管させた場合には国外送金等調書制度の適用外であったため,適正・公平な課税を実現する観点から運用益や譲渡所得を免れることを防止するために導入されました。

 

5 国外財産調書
 国外財産調書制度は,以前の法務ノートでも解説しましたが,平成24年度の税制改正により導入され,平成26年1月から施行されています。また,調書の不提出や虚偽記載の場合の罰則規定については,平成27年1月から施行されています。
 その年の12月31日においてその価額の合計額が5000万円を超える国外財産を保有する居住者(非永住者を除く)は,翌年の3月15日までに当該国外財産の種類,数量及び価額その他必要な事項を記載した「国外財産調書」を税務署に提出しなければならないとされています(法5条)。

 

6 財産債務調書
 従来,所得税法において,その年分の各種の所得金額の合計額が2000万円を超える者は,その年の12月31日現在の財産や債務についてその種類や金額を記入した「財産及び債務の明細書」を確定申告書に添付しなければならないことになっていました。もっとも,その保有財産の記載内容は「土地」など概括的な記載のものや,金額等の記載がないものが多く,さらに提出率も4割程度であったので,財産調査の資料としては不十分とされていました。
 そこで,平成27年税制改正により法定調書に見直され,平成28年1月1日から施行されています(法6条の2)。財産債務調書は,①その年の所得金額が2000万円を超え,かつ,②その年の12月31日において価額の合計額が3億円以上の財産又は③1億円以上の国外転出特例対象財産を有する場合に提出しなければなりません。すなわち,「①+②」又は「①+③」の場合に調書を提出しなければならず,従来の所得(フロー)要件(①)のみであった「財産及び債務の明細書」に,財産(ストック)要件(②又は③)が加わっています。なお,「国外転出特例対象財産」とは,以前に法務ノートで解説した出国税に関する用語で,所得税法第60条の2第1項に規定する有価証券等,同条第2項に規定する未決済信用取引等及び同条第3項に規定する未決済デリバティブ取引に係る権利をいいます。
 財産債務調書制度には罰則規定はないものの,国外財産調書制度と同様に,加算税の加減算によるインセンティブ措置が設けられています(法6条の3)。財産債務調書の対象となる財産は多岐にわたり,相続税申告と同等の手間や時間がかかる場合もあるといえます。なお,他の制度と同様に,財産債務調書も税務当局による質問検査権の対象となっており,実地調査に移行する可能性があり(法7条),慎重に手続きを進める必要があります。

 
7 情報交換
 最後に,法定調書の制度ではないですが,各国との情報交換を通じて海外資産を捕捉することもあり,法改正により重要な問題になってきます。
米国では,外国口座税務コンプライアンス法(FATCA/ファトカ)という,米国人や米国法人等が租税回避を防止するためにつくられた法律があります。この法律に基づき,米国で事業を営む外国の金融機関は,米国人等が有する関連の海外口座情報について,米国内国歳入庁(IRS)に報告する必要があります。たとえば,スイスの銀行もFATCAによって守秘義務に幕を引いたと,いったことがニュースになっています。
 さらに,二国間ではなく,OECDを中心として租税回避を防止する取り組みが進んでおり(BEPSブロジェクト),OECD租税委員会は,非居住者の口座情報を多国間で自動的に交換し合う基準であるCRS(Common Reporting Standard/共通報告基準)を承認しました。これを受けて,平成27年度税制改正により,日本においても,「非居住者に係る金融口座情報等の自動的交換のための報告制度の整備」が導入されることになりました。

(弁護士 茨木佳貴)

以上

 

投稿者: 棚瀬法律事務所

2016.01.14更新

相談内容 : 弊社はインドの現地法人として事業を行っているのですが、先日、現地NGOから、会社法の定めるCSR支出として、同NGOに寄付をしないかとの打診を受けました。弊社は、CSR活動を通して一定の金員を支出しなければならないのでしょうか。支出義務があるとして、どのように支出する必要があるのでしょうか。また、同NGOを介してCSRとして資金支出するにあたって、注意点はありますか。

 

1 インド会社法の定めるCSR義務の概要

 

 純資産が50億ルピー以上、売上が100億ルピー、または純利益5千万ルピー以上の会社は、CSR委員会(Corporate Social Responsible Committee)を設置し、同委員会が推薦するCSRポリシー(Corporate Social Responsibility Policy)に従い、直近3会計年度の平均純利益額の2パーセントに相当する額をCSR活動として支出しなければなりません(会社法135条1項)。この平均純利益額は税引き前の額となります。同責任を負担するに至った場合、会社は具体的に以下の手順を踏む必要があります。

 

2 CSR責任を負担する場合に企業が取るべき手続

 

(1) CSR委員会の組成

 まず、取締役会は、取締役3名以上から構成されるCSR委員会の組成を議決する取締役会決議を行う必要があります。このCSR委員会を構成する取締役の少なくとも1名は、独立取締役である必要があります。ただし、独立取締役の選任要件(会社法149条4項)を満たさない非上場公開会社又は非公開会社に関しては、独立取締役をCSR委員会の一員として選任する必要はありません(規則5条(1)(i))。また、取締役の数が2名の非公開会社に関しては、CSR委員会を構成する取締役数も2名となります(規則5条(1)(ii))なお、CSR委員会の構成は、取締役会報告書にて開示されなければなりません(会社法135条2項)。

 

(2) CSR委員会によるCSRポリシーの策定とその推薦

 CSR委員会は、CSRポリシーを策定し、これを取締役会に推薦します。このCSRポリシーには、後述のように、実施すべきCSR活動の内容等を記載する必要があります。

 

(3) 取締役会によるCSRポリシーの承認とCSR活動の実施

 取締役会は、CSR委員会が推薦したCSRポリシーを承認し、これを取締役会報告書及び会社のウェブサイトに掲載しなければなりません(同4項(a))。このポリシーに従い、取締役会はCSR活動を実施し、直近3会計年度の平均純利益額の2パーセント相当額を支出する必要が有ります(同4項(b))。 なお、取締役会は前期不足支出分を次期に繰越すことは出来ますが、前期超過支出分を次期に繰り越すことは認められません。

 

3 CSRポリシー作成の注意事項

 CSRポリシーには、会社法スケジュールVIIに列挙された活動に含まれるCSRプロジェクト又はプログラムの内容、実行様式、スケジュールの一覧が記載されなければなりません。また、CSR委員会が同プロジェクト又はプログラムをモニタリングするプロセスについても記載される必要が有ります(規則6条1項)。さらに、CSR活動によって生じた利益が事業利益を構成しないことを明示する必要があります(規則2条2項)。なお、インド国外での活動は、CSRによる支出として認められません(規則4条4項) スケジュールVII記載の活動及びCSR活動として認められない活動は以下のとおりですが、インド企業省は、スケジュールVII記載の活動の範囲は広く解釈されると表明しています。

 

(1) スケジュールVII列挙事項

i. 貧困、飢餓及び栄養失調の撲滅、予防医療及び公衆衛生促進並びに入手可能な安全な飲料水の製造

ii. 特に子ども、女性、高齢者、障害者の職業能力を向上させる特別な教育・雇用を含む教育ならびに生活向上プロジェクトの推進

iii. 男女平等促進、女性の社会的地位向上促進、女性および孤児のための家・宿泊施設の設立、老人ホーム、デイケアセンターその他高齢者向けの施設の設立、社会的および経済的に劣後するグループが直面する不平等を解消する方法

iv. 環境の持続可能性、生態系バランスの確保、動植物保護、動物の繁栄、森林農業の保護、天然資源の保全ならびに土壌、空気および水質の維持

v. 建築物、歴史的な遺跡及び美術作品の復元を含む国家遺産、芸術および文化の保護、公立図書館の設立、伝統芸術及び手工芸品の発展

vi. 地方でのスポーツ活動、全国的に認識されたスポーツ、パラリンピック・スポーツ及びオリンピック・スポーツを促進する訓練

vii. “Prime Minister`s National Relief Fund”又は中央政府が社会経済発展のために設立した他のファンド並びに指定されたカースト、種族その他発展の遅れた階級、マイノリティ、及び女性のための救済基金並びに福祉への寄付

viii. 中央政府の承認を得た、大学施設内設置のテクノロジー・インキュベーターへの寄付

ix. 地方発展プロジェクト

 

(2) CSR活動として認められない活動

i. 会社従業員及びその家族に対してのみ利益になるCSRプロジェクト及びプログラム

ii. その会社の通常の事業において実施される活動

iii. 法令上の義務を履行する上で必要な活動

iv. 会社法182条の規定する政党に対する直接・間接的な寄付

v. マラソン、授賞、慈善寄付、広告、TVプログラムのスポンサー契約等の一過性のイベント

vi. PPP又は都市インフラ領域における政府職員又は議員の能力構築支援

vii. 持続的な都市開発及び都市輸送

 

 

4 NGO等との間で契約を締結する上での注意点

 相談のケースでは、NGOに寄付する方法が問題とされておりますが、NGO等に対する寄付がCSRの支出と認められるためには条件があり、注意が必要です。まず、会社は非営利目的会社(会社法8条)、登記されている財団、組合に対して寄付する方法によってCSR活動を行うこともできますが、その会社が設立した財団等でない限り、当該非営利目的会社等が3年間同種の活動に従事したことを示す活動記録が必要であります(規則4条2項(a))また、当該非営利目的会社等が、専ら、CSR活動又はスケジュールVII記載の活動を実施するために設立されたものでなければなりません。

 さらに、会社は、実施されるプロジェクトまたはプログラム、資金活用の様式、同プロジェクトまたはプログラムの監視及びレポートのメカニズムを明確にする必要が有ります(規則4条2項(b)) したがって、会社がNGO等に寄付する方法でCSR活動を行う場合、当該NGO等が上記要件を満たしているか確認する必要が有ります。また、NGO等に対して寄付するにあたっては、契約書を作成し、支出資金によって実施されるプロジェクトの中身、資金使途の制限、NGOの活動内容や資金支出入の監視体制に関する契約条項を作成すべきです。

 

 

5 CSR責任違反の効果

CSR委員会の設置義務及びCSR活動資金の支出義務違反に対する罰則はありませんが、CSR活動資金の支出義務を怠った場合、その理由を取締役会報告書にて報告する義務があり(会社法135条5項第2但書)この報告を怠った場合には罰則が科されます(会社法134条8項)。

 

6 税務上の取扱い

CSR活動は税務上費用として計上することは認められておりません。他方、所得税法上、Prime Minister`s National Fundに対する寄付や地方を発展させるプロジェクト、技能向上プロジェクト、農業拡張プロジェクト等の一定の活動に関しては、税優遇措置が採られております。

棚瀬法律事務所 デリー駐在弁護士 遠藤 衛

投稿者: 棚瀬法律事務所

2015.08.04更新

インド法務取扱実績例アップデート

 

棚瀬法律事務所は、インド法務に関するリーガルサービスの提供に注力しておりますが、その実績例を紹介します。

 

輸入・販売に関する規制のリサーチ
消毒効果が認められる物質を製造する機械の輸入・販売を計画している企業から、インドにおいて当該製品の輸入・販売の際に課される規制のリサーチを受任し、Drug and Cosmetics Act, 1940、Insecticide Act, 1968、The Manifacture, Storage and Hazardous Chemical Rules, 1989等の20弱に及ぶ法令の調査結果をレポートしました。

 

移転価格課税訴訟のサポート
当局から移転価格課税による追徴を求められたインドで製造業を営む企業から、移転価格課税の訴訟遂行につき全面的なサポートを依頼され、法令・判例の調査にはじまり、主張の骨子の作成、準備書面のドラフト、現地法律事務所と協働しながらの訴訟遂行等、移転価格課税訴訟に関する包括的なリーガルサービスを提供しました。

 

Permanent Establishment課税に関するアドバイスの提供
インド国内に拠点を持つ大手自動車メーカーに従業員を派遣することを考えている企業から、当該派遣がPermanent Establishmentと認定され課税されるリスク(PE課税リスク)について調査・分析を依頼され、日印租税条約、OECDガイドラインやインド裁判所の判例を調査・分析し、これに関するアドバイスをレポートしました。

 

Joint Venture Agreementのドラフト
インド国内で少数派株主としてJoint Venture Companyの設立を検討している企業から、Joint Venture Agreement作成に関するアドバイスの提供とそのドラフトを依頼され、インド会社法(Companies Act, 2013)の規定に照らして少数派株主の権利が確保される形でJoint Venture Agreementをドラフトしました。

 

Joint Venture Companyの清算・再編
インド国内で多数派株主としてJoint Venture Companyを運営している企業から、当該Joint Venture Companyの清算等に関するJoint Ventureパートナーと交渉のサポートを依頼され、インド会社法、インド契約法(Contract Act,1872)やJoint Venture Agreement等に照らし依頼者にとって交渉上有利となる事項を調査し、その調査結果をレポートしました。

 

ロイヤリティ契約のドラフト
インド国内でJoint Venture Companyを運営する企業から、当該企業とJoint Venture Companyとの間で締結するロイヤリティ契約に関するアドバイスの提供とそのドラフトを依頼され、インドの送金規制や課税リスク等に配慮しつつ、ロイヤリティ契約をドラフトしました。

 

インド競争法(独禁法)に関するリサーチ
インド国内で製造業を営む企業から、商品の価格設定に関するインド競争法(The Competition Act, 2002)上の規制についてアドバイスの提供を依頼され、インド競争法や過去のCompetion Comission Indiaの過去の審判等を分析し、当該企業が行おうとしている価格設定行為がインド競争法に抵触する危険についてアドバイスしました。

 

インド請負労働法に関するアドバイス
インド国内に拠点を持つ大手自動車メーカーに従業員を派遣することを考えている企業から、当該派遣がインド請負労働法(Contract Labour(Regulation and Abolishion) Act, 1970)に抵触する危険性に関しアドバイスの提供を依頼され、インド請負労働法や判例等を調査し、インド請負労働法抵触の危険性に関する調査結果をレポートしました。

 

不動産についての外資規制に関するアドバイス
インド国内で製造業を営む企業から、その所有する土地の活用に関してアドバイスの提供を依頼され、不動産の取得・譲渡に関する外国為替管理規則(Acquisiiton and transfer of immovable property in Indian Regulations, 2000)等の関連法令を調査し、その結果をレポートしました。


(弁護士 遠藤 衛)

投稿者: 棚瀬法律事務所

2015.07.06更新

1. はじめに

 「国際相続」をテーマとして取り上げる場合,大きく,相続が発生する前(被相続人が死亡する前)のタックス・プランニングを対象とするものと,相続が発生した後(被相続人が死亡した後)の遺産分割手続等を対象とするものの,2つに分類することができます。以前の法務ノートで解説した「国外財産調書の提出制度」や「国外転出時課税制度(出国税)」は,相続が発生する前のタックス・プランニングに関連する内容でしたが,今回の法務ノートでは,相続が発生した後の遺産分割手続等に関連する内容について解説します。
 その場合も,さらに,相続税等の「税務」の問題と,相続法制や裁判手続等の「法務」の問題の,2つに分かれますが,今回は,法務の問題について解説をしていきます。

 

2. 渉外家事事件
(1) 3つの問題
 渉外家事事件とは,事件の当事者の中に外国人が含まれている場合の家事事件のことを意味しますが,広義では,国籍,住所地,婚姻挙行地,出生地,相続財産所在地等の法律関係を構成する諸要素が複数の国に関連する家事事件のことを意味します。
 渉外事件一般でもそうですが,渉外家事事件においても,①国際裁判管轄の存否,②準拠法の決定,③裁判の国際的効力の問題について検討をする必要があります。

 

(2) 国際裁判管轄
 国際裁判管轄の存否の問題とは,ある事件の裁判管轄がどの国の裁判所にあるかという問題で,当事者が外国人であったりした場合に,我が国の裁判所でその事件を扱ってよいかという問題です。
 民事訴訟法の改正によって国際裁判管轄の規定が追加されましたが,渉外家事事件に関する国際裁判管轄の規定はありません。現在,法制審議会の国際裁判管轄法制(人事訴訟事件及び家事事件関係)部会で検討されており,平成27年2月27日付け取りまとめとして中間試案が公表されています。
 法律の規定が存在しないことから,一般的には,当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念により,条理にしたがって解釈によって決定するのが相当とされています(最判昭和56年10月16日民集35巻7号1224頁等)。

 

(3) 準拠法の決定
 渉外家事事件を含む渉外事件の手続については,「手続は法廷地法による」という一般原則が妥当し,手続法は,原則としてその事件を取り扱う裁判所の所在地国の法によります。他方で,ある事件に適用する実体的な法基準については,「法廷地法による」といった一般原則は存在しないので,どの国の法を適用するかが問題になります。これが準拠法の決定の問題です。
 渉外事件に適用される実質法を「準拠法」といい,準拠法の選択方法を一般的に指定する法を「国際私法」といいます。我が国の国際私法としては,法の適用に関する通則法が平成19年1月1日から施行されており,その他に,扶養義務の準拠法に関する法律や,遺言の方式の準拠法に関する法律などがあります。
 国際私法の規定は,人の行為能力,法律行為の成立及び効力,婚姻,相続といった準拠法決定の基準となる法的概念を意味する「単位法律関係」と,目的物の所在地,当事者が選択した地といった特定の法域を指し示す要素である「連結点」によって形成されています。たとえば,通則法36条は「相続は,被相続人の本国法による」と規定しているところ,相続が単位法律関係で,被相続人の本国法が連結点になります。
 準拠法決定は,(ⅰ)法律関係の性質決定→(ⅱ)連結点の確定→(ⅲ)準拠法の特定→(ⅳ)準拠法の適用というプロセスで行われます。(ⅳ)準拠法の適用というプロセスで問題になるのが,公序(通則法42条)です。たとえば,当職が扱った事件として,外国人の養父と日本人の養子との離縁が問題になったケースで,通則法31条2項は「離縁は,前項前段の規定により適用すべき法による」と規定しており,前項前段である通則法31条1項前段は「養子縁組は,縁組の当時における養親となるべき者の本国法による」と規定しているところ,養親の本国法では離縁が認められていませんでしたが,縁組を継続し難い重大な事由があるにもかかわらず離縁を一切認めないことは「公の秩序又は善良の風俗に反するとき」(通則法42条)に該当するとして,養親の本国法が適用されずに日本法が適用され,離縁が認められたということがありました。

 

(4) 裁判の国際的効力
 ある国で下された判決・決定・審判については,原則として,その国の領域内でのみ効力を有することとなります。現在の国際秩序は主権国家体制ですので,当然の帰結といえます。しかし,外国で裁判が一度あったにもかかわらず,別の国では一切効力がなく,同一の紛争に関してもう一度裁判をしなければならないとすると,当事者に負担を強いることになります。そこで,外国判決の承認・執行について,規定がされています。
 我が国では,民事訴訟法118条に外国裁判所の確定判決の効力について定めた規定があり,また,民事執行法24条に外国裁判所の判決の執行判決について定めた規定があります。他方,渉外家事事件では,「判決」ではなく「審判」・「決定」という非訟事件の裁判が問題になることが多く,非訟事件の裁判は訴訟事件の判決とは法的概念が異なるため,民事訴訟法118条等の外国判決の承認・執行の規定が直接適用できません。もっとも,外国非訟事件裁判についても,一般に,条理に従い,我が国でその効力を承認することができるとされており,民事訴訟法118条を類推適用して外国非訟事件の裁判についても承認できると解されています。ただし,民事訴訟法118条が規定する要件のうちすべての要件を満たす必要があるのか,それとも,一部でよいのかについては,争いがあります。

 

3. 相続に関する諸外国の法制度
(1) はじめに
 上記のとおり,国際相続が問題になる場合には,①どこの国の裁判所が事件を扱うかという国際裁判管轄の問題,②どこの国の法律が適用されるかという準拠法の決定の問題,③外国で裁判があったとして,その裁判の効力が国内で認められるかという裁判の国際的効力の問題を検討する必要があります。
 そして,準拠法が外国法になった場合,以下に述べるとおり,相続の法制度は各国で異なることから,外国法の調査等が必要になってきます。

 

(2) いくつかのパターン
 国際相続の渉外家事事件として,日本の裁判所に係属する事件としては,遺産分割事件,相続放棄申述受理事件,相続財産管理人選任事件,遺言書の検認事件,遺言執行者選任事件等があります。
 前述のとおり,日本の裁判所が事件を扱うことができるかという国際裁判管轄の問題と,どこの国の法律が適用されるかという問題が生じます。パターンとしては,(ⅰ)日本の裁判所に管轄があり,日本法が適用される場合,(ⅱ)日本の裁判所に管轄があり,外国法が適用される場合,(ⅲ)外国の裁判所に管轄があり,日本法が適用される場合,(ⅳ)外国の裁判所に管轄があり,外国法が適用されるという4つがありますが,(ⅰ)の場合であっても,海外に相続人が住んでいたり,海外に財産があったりするために,外国との連携が必要になる場合があります。

 

(3) 各国の法制度
 日本経済新聞の「国際相続・国外財産プロフェッショナル」の記事でも解説されているとおり,諸外国の相続法制は,「包括承継主義」と「管理清算主義」の2つに分かれます。「包括承継主義」とは,被相続人の死亡によって,相続財産は積極財産であると消極財産(債務等)であるとを問わず,包括的に相続人に帰属するという考え方です。「管理清算主義」とは,被相続人の遺産は相続人には直接帰属せず,遺言又は裁判所により選任された遺産管理人にいったん帰属し,遺産管理人が管理清算した後,積極財産がある場合にのみ相続人に分配するという考え方です。包括承継主義は,日本,ドイツ,フランス,イタリア,スイスなど諸国で採用されており,管理清算主義は,アメリカ,イギリス,オーストラリアなどの英米法系の諸国で採用されています。
 さらに,相続に関する国際私法については,「相続統一主義」と「相続分割主義」の2つがあります。「相続統一主義」とは,不動産の相続と,預貯金・有価証券などの動産の相続であるとを問わず,相続関係を一体として規律しようとするものです。「相続分割主義」とは,不動産についてはその所在地法を適用し,動産については被相続人の本国法又は住所地法を適用するものです。相続統一主義は,日本やドイツなどが採用しており,相続分割主義は,アメリカ,イギリスなどが採用しています。
 包括承継主義であれば相続統一主義,管理清算主義であれば相続分割主義ということに必ずしもなるわけではなく,たとえば,フランスは,包括承継主義ですが相続分割主義を採用しています。また,管理清算主義を採用している場合,「遺産の管理清算」と「残余財産の分配」は別個の手続になり,国際私法に関する相続分割主義が問題になるのは,後者の「残余財産の分配」の手続のみで,遺産の管理清算については,不動産と動産を区別せずに遺産管理地法を適用することとされています。

 

(4) 我が国の国際私法
 通則法36条は,「相続は,被相続人の本国法による」と定め,相続財産の所在地や,相続財産が不動産か動産であるかにかかわらず,被相続人の本国法によって判断する相続統一主義を採用しています。
また,通則法37条第1項は,「遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による」と定めています。「遺言の成立及び効力」とは,遺言という意思表示自体の問題を指し,たとえば,遺言能力,遺言の意思表示の瑕疵という成立の問題や,遺言の意思表示の効力発生時期といった効力の問題が該当します。遺贈,遺言執行人の指定・選任・権限に関する問題は,遺言の成立及び効力の問題ではなく,通則法36条が規定する相続の問題になります。
 さらに,遺言を方式上なるべく有効として保護するため(遺言優遇の原則),1961年にハーグ国際私法会議で採択された「遺言の方式に関する法律の抵触に関する法律」を1964年に批准し,通則法の特別法として,「遺言の方式の準拠法に関する法律」が規定されています。そのため,この法律が定めるいずれかの1つに遺言の方式が適合するとき,遺言は方式に関して有効になるとされています。

 

(5) まとめ
 上記のとおり,相続の法制度は各国により異なっており,たとえば,管理清算主義を採用する国の法が準拠法となる場合,我が国には遺産管理人による遺産の管理清算に該当する手続が存在せず,我が国の相続財産管理人と英米法系の遺産管理とでは性質が異なるため,どのように遺産管理を行うかが問題になります。また,たとえば,遺言書の「検認」が問題になる場合,我が国の遺言の検認は,遺言書の有効性を判断するものではなく,遺言書の存在を確認し,その偽造・変造等を防止して,遺言書を保存するための一種の証拠保全手続とされているので,我が国の家庭裁判所では代行できないということもありえます。
 このように,国際相続においては,裁判管轄や準拠法が決まったとしても,法制度が異なりすぎて,相続の手続が円滑に進まないということが発生することもあります。


(弁護士 茨木 佳貴)

投稿者: 棚瀬法律事務所

2015.06.26更新

Ministry of Corporate Affiarsは、会社法462条に基づき、2015年6月5日に、非公開会社に対する会社法の適用に関して、通達により下記の点につき会社法を修正等しました。各修正点について、俯瞰します。なお、以下Serial numberについては、「SN」と表記します。 

 

1 関連当事者の範囲の修正(重要度” 高”)

 

 SN1.は、非公開会社に関して、関連当事者取引規制について規定するインド会社法188条との関係で、関連当事者の定義規定であるインド会社法2条76項のうち(viii)が適用されないこととしました。

 インド会社法188条によれば、会社が関連当事者(related party)との間で一定の取引を行う場合、原則として、取締役会決議による取締役会の承認等を取得する必要があります。そして、インド会社法2条76項(viii)は、親会社、子会社若しくは関連会社又は親会社の別の子会社が関連当事者に含まれるとしています。

 したがって、従来、非公開会社が親会社、子会社若しくは関連会社又は親会社の別の子会社と188条所定の取引を行う場合、原則として、逐一取締役会の承認を得る必要がありました。しかし、本通達によって、非公開会社については、このような承認は不要となりました。 

 

2 株主の権利内容の修正(重要度”低”)

 

 SN2.は、非公開会社との関係で、基本定款又は附属定款に記載する方法によって、株主権の内容について規定するインド会社法43条及び47条の適用を除外できる旨修正しました。

 インド会社法43条は株式の種類やその内容を、インド会社法47条はすべての株主が議決権を有することや、投票の方法による株主総会決議における議決権数が払込資本金額に比例すること等を規定しておりますが、同条の適用を除外することで、より柔軟な株主総会の決議ルールの策定が許容されることになります。 

 

3 株主割当発行の申込期間の短縮(重要度”中”)

 

 SN3.は、新株の株主割当発行に関する通知様式について規定するインド会社法62条1項(a)(i)の但書として、以下の規定を追加しました。

Provided that notwithstanding anything contained in this sub-clause and subsection (2) of this section, in case ninety per cent. of the members of a private company have given their consent in writing or in electronic mode, the periods lesser than those specified in the said sub clause or sub section shall apply,

この規定の追加により、非公開会社において、株式の90パーセント以上を保有する株主の書面又は電磁的様式による同意を得た場合には、15日を下回る申込期間を設定できるようになりました。この修正により、非公開会社はより迅速に新株の株主割当発行が可能となります。 

 

4 ストックオプション発行手続きの修正(重要度”低”)

 

 SN4.は、非公開会社との関係で、ストックオプションの発行について規定するインド会社法62条1項(b)について”special resolution”という文言を”ordinary resolution”という文言に置き換えました。

 ストックオプションの発行の際には株主総会特別決議が要求されていましたが、この修正により、非公開会社がストックオプションを発行する際には、株主総会普通決議で足りるものとされました。 

 

5 自己株式取得に関する例外(重要度”中”)

 

 SN5.は、自己株式取得を規制するインド会社法67条が、非公開会社との関係で、以下の場合には適用されないものとしました。

 (a)他の法人が、当該非公開会社の株式資本の払込みを行っておらず、

 (b)当該非公開会社が銀行、金融機関又は他の法人から借入を行っている場合、その借入額が、払込資本金額の2倍の額又は5000万Rsのいずれかより低い額を下回っており;かつ

 (c)自己株式の取得を行う際に当該非公開会社の当該借入に対する支払いについて不履行がない場合

この修正により、上記要件を満たす非公開会社は会社法67条の定める自己株式取得規制に服さないこととなります。

 

6 預り金規制に関する例外(重要度”低”)

 

 SN6.は、会社が預り金することを認められる要件について規定するインド会社法73条2項の要件(a)乃至(e)が、一定の場合に非公開会社に適用されないものとしました。

 インド会社法73条1項は、会社が公衆から預り金をすることを原則的に禁止しておりますが、同2_項は、定時株主総会における普通決議を経ること等の条件の他に、同項(a)乃至(f)が規定する各要件の充足が認められる場合に、特定の株主等から預り金をすることを許容しています。
 SN6.の修正により、非公開会社に関しては、預り金の総額が払込済資本金及び自由準備金の合計額を超えず、その詳細を別途規則の定める方法に従い登録した場合には、(a)乃至(e)に規定される、回状の発行等の要件を充足することなく、預り金をすることが認められることになりました。 

 

7  株主総会手続に関する定款による修正(重要度”高”)


 

 SN7.は、株主総会手続等について規定するインド会社法101条乃至107条及び109条が、非公開会社に対しては、定款によりその適用を排除できるものとしました。各条項が規定内容は以下のとおりです。

 101条:株主総会招集通知の記載事項や発送時期等の方法に関して

 102条:株主総会招集通知に添付されるべき付属書類に関して

 103条:株主総会の定足数に関して

 104条:株主総会の議長の選出に関して

 105条:議決権の代理行使に関して

 106条:議決権の権利行使制限に関して

 107条:挙手の方法による株主総会決議に関して

 109条:投票の方法による株主総会決議に関して

 この修正により、非公開会社は、定款で別途規定することにより、株主総会手続に関して、より柔軟なルール設計が可能となりました。

 

8 決議に関する必要的提出書類の範囲の修正(重要度"中")

 


 SN8.は、決議に関する書面の提出を義務付ける、インド会社法117条のうち、同条3項(g)が非公開会社に適用されないものとしました。

 インド会社法117条3項(g)は、インド会社法179条3項所定の必要的取締役会決議事項に関する取締役会決議の写しを、登録官に対する提出が必要な書類として指定する規定です。

 この修正により、非公開会社は、179条3項所定の事項に対する取締役会決議の写しを登録官に提出する必要がなくなりました。

 

9 監査役の就任上限会社数の算定方法に関する修正(重要度"低")


 

 SN9.は、監査役の非適格要件について規定するインド会社法141条3項のうち、(g)に関して、以下の修正を加えました。


"twenty companies"の文言の後に、""other than one person companies, dormant companies, small companies and private companies having paid-up share capital less than one hundred crore rupees"の文言を挿入。


 監査役として就任できる会社数は、一名につき20社未満と限られておりますが、この修正により、一人会社、休眠会社、小規模会社、払込資本金額10億Rs以下の非公開会社は、この20社の数に含まれないこととなりました。

 

10 取締役選任保証金等の適用除外(重要度"中")


 

 SN10.は、取締役選任の際に保証金等を要求するインド会社法160条が、非公開会社に適用されないものとしました。

 インド会社法160条は、株主総会決議で新たな取締役を選任するにあたり、自筆の立候補の通知及び10万Rs以上の保証金の支払を要求しております。

 この修正により、非公開会社においては取締役選任に際する当該保証金の支払が不要となりました。

 

11 取締役一括選任規制に対する修正(重要度"低")


 

 SN11.は、取締役の個別的選任について規定するインド会社法162条が、非公開会社に適用されないものとしました。

 インド会社法162条1項及び2項は、事前の出席株主の同意がない限り、2名以上の取締役を一つの決議で選任する株主総会決議の進行を許容しておらず、これに違反する決議は無効であると規定しております。

 この修正により、非公開会社においては、取締役の一括選任が許容されることとなりました。

 

12 事業譲渡に関する適用除外(重要度"高")


 

 SN12.は、事業譲渡に関して株主総会特別決議を要求するインド会社法180条が、非公開会社に適用されないものとしました。

 この修正により、非公開会社は株主総会特別決議を経ることなく事業譲渡を行うことが出来るようになります。



 

13 報告が必要な取締役の利害関係の範囲の修正(重要度"中")

 


 SN13.は、取締役の利害関係の情報公開に関して定める、インド会社法184条2項が、非公開会社に適用されないものとしました。

 インド会社法184条2項は、会社と、その会社の取締役と特別な関係がある法人等が契約を締結する場合に、当該取締役に対して当該契約に関する利害関係を報告する義務を課し、また、当該取締役会への参加を制限しておりますが、この修正により、非公開会社に関しては、取締役に対する当該報告義務が免除され、取締役会への参加が許容されることとなります。



 

14 取締役に対する貸付規制の例外(重要度"中")


 

 SN14.は、取締役に対する貸付規制に関して定める、インド会社法185条が、以下の場合には非公開会社に適用されないものとしました。

 (a)他の法人が、当該非公開会社の株式資本の払込みを行っておらず、

 (b)当該非公開会社が銀行、金融機関又は他の法人から借入を行っている場合、その借入額が、払込資本金額の2倍の額又は5000万Rsのいずれかより低い額を下回っており;かつ
 (c)当該非公開会社がインド会社法185条が規定する取引を行う際に、当該借入に対する返済について不履行がない場合

 この修正により、 上記要件を満たす非公開会社は会社法185条の定める貸付規制に服さないこととなります。

 

15 関連当事者の議決権行使規制の適用除外(重要度"中")

 


 SN15.は、関連当事者規制について規定するインド会社法188条のうち1項第2但書が非公開会社に適用されないものとしました。

 インド会社法188条1項第1但書は、一定の関連当事者取引に関して、取締役会決議の他、株主総会普通決議を要求しておりますが(注:Companies (Amendment) Act, 2015により特別決議から普通決議に改正)、同第2但書は、当該株主総会決議において関連当事者が議決権を行使することができない旨規定しております。

 この修正により、非公開会社に関しては、関連当事者取引の際に必要とされる株主総会決議において、関連当事者が議決権を行使できるものとされました。

 



16 経営責任者規制に関する適用除外(重要度"高")

 


 SN16.は、経営責任者の選任について規定するインド会社法196条のうち、4項及び5項が、非公開会社に適用されないものとしました。

 インド会社法196条4項は、取締役会が、インド会社法197条及びSchedule Vの規定する適格要件に従って、managing director、whole-time director及びmanagerを選任し、また、支払うべき対価の承認をしなければならないこと等を規定しております。また、同5項は、取締役会で選任された経営責任者が、後に開催される株主総会において承認されなかった場合に、取締役会選任後の取締役の行為が無効にならない旨規定しております。

 この修正により、非公開会社に関しては、Schedule Vの規定する主要経営者適格要件や報酬支払条件に縛られることなく、managing director、whole-time director、managerを選任し、これら経営責任者に対して報酬を支払うことが可能となりました。




Exemptions to Private Companies under section 462 of CA 2013

http://www.mca.gov.in/Ministry/pdf/Exemptions_to_private_companies_05062015.pdf

 (弁護士 遠藤 衛)

 

投稿者: 棚瀬法律事務所

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