2016.06.27更新

相談内容:弊社は、医療機器をインドで製造・販売している会社です。弊社の顧客には、病院のみならず個人も含まれています。先日地域フォーラムという機関を通して、代理店から弊社商品を購入した個人のお客様から、弊社商品を使用したところ怪我をしたという苦情が届きました。製造物責任が問題になるのかと推測しますが、製造物責任をはじめとするインドの消費者保護法制はどのようになっているのでしょう。

 

1 インド消費者保護法制  

 インドにおける消費者保護は、主に消費者保護法(Consumer Protection Act, 1986)によって図られていますが、問題となる商品によっては、別途個別法による消費者保護が図られることもあります。なお、インドには日本の製造物責任法に相当する法律は存在しません。

 相談事例のケースでは、特に消費者保護法のほか、医薬・化粧品法(Drugs and Cosmetics Act, 1940)、も問題になりえますが、本稿ではインド消費者保護制度の中心となる消費者保護法に焦点を当てて解説します。

 

2 消費者保護法  

 日本の消費者保護法が実体法的側面に重きが置かれているのに対して、インドの消費者保護法は、消費者問題に関する特別な紛争解決手続きを規定することで消費者の保護を図っています。インドでは通常認められていない懲罰的賠償や消費者のクラスアクションといった企業責任を加重させる制度を導入している点に特徴があります。

 インドにおける消費者問題は、時に企業に対して甚大な損失を及ぼすため、軽視することはできません。代表的な事例として、スイス食品大手のネスレのケースが挙げられます。2015年に、インド食品安全基準局は、ネスレが販売する、インドの国民的インスタントヌードルであるMaggiに規定量を超える鉛が含有されているとして、その販売を差止めするとともに、消費者保護法に基づき、約64億ルピーに及ぶ補償金を求めるクラスアクションを提起し、インドでビジネスを行う企業に衝撃を与えました。

 消費者問題を検討するに際しては、誰が、どのような理由に基づいて、どういった請求をしてくるのかという点や、手続の概要を理解することが理解することが有益です。以下、消費者保護法が定める手続きの申立人、審理対象となる苦情や手続きの概要について解説します。

 

(1) 申立人  

消費者保護法は、同法が規定する特別手続きを利用できる申立人(complainant )の範囲として、以下のように規定しています(消費者保護法2条1項(c))

  

(i) 消費者  

 なお、消費者には、対価を支払って商品を購入したものや購入者に使用を許諾された商品のユーザーが含まれますが、再販売目的といった商業目的で商品を購入したものは消費者に含まれません。また、消費者にはサービスのユーザーや、当該ユーザーからサービスの利用を許諾されたものを含みますが、商業目的でサービスを利用するものは消費者から除外されています(消費者保護法2条1項(d))

(ii) 会社法上の登記をされている非営利消費者団体

(iii) 中央政府又は州政府

(iv) 共通の利益を有する1名以上の消費者

(v) 死亡した消費者の相続人又は代理人  

 

 このように、消費者保護法は商業目的がある場合を除いて、広く商品購入者又はサービス利用者が消費者に含まれると規定し、申立人適格を認めています。また、共通の利益を有する複数の消費者に対して申立人適格を与えることで、クラスアクションを認めています。特に中央政府が動くようなケースでは、係争額も大きくなりやすく、企業にとって大変なリスクとなります。

 相談者のケースでは、医療機器の購入者として病院や個人が想定されていますが、病院は、商業目的のもと医療機器を購入することが通常であり、苦情申立人に該当しないこととなります。これに対して、医療機器を購入した個人は、商業目的を備えないことが通常ですので、申立人に該当し得ます。

 

(2) 審理対象となる苦情

 審理対象を正確に理解することは、消費者保護法がどのような問題を消費者紛争と位置付けているかを把握することにつながり、ひいては消費者紛争の予防にも資するといえ、特に重要です。

 消費者保護法は、申立人が書面で行う以下の申立てが、審理対象となる苦情(complaint)に該当すると規定しています(消費者保護法2条1項(c))。

 

(i) トレーダー又はサービスプロバイダーによる不公正取引又は制限的取引

 なお、ここにいう不公正取引として、優良誤認表示といった不当表示又は不実表示、販売する意図のない割引価格の提示、商品コストの上昇を意図した商品の貯蔵、破棄、販売拒絶や模造品の販売等が列挙されています。

 「制限的取引」とは消費者に不当なコストや制限を課す価格操作や配送条件の設定等を意図した取引を意味し、配送遅延のコストを消費者に負担させる行為や、特定の商品購入の条件として他の商品の購入を要求する行為が含まれます。

(ii) 商品の欠陥

(iii) サービスの欠陥

(iv) トレーダー又はサービスプロバイダーによる法定価格、商品のパッケージ記載価格又は当事者が合意した価格等を超える代金請求

(v) 法が規定する安全基準に違反し、その公衆に対する販売が生命又は安全に危害を及ぼしうる商品、又はトレーダーが通常要求される注意を払えば公衆に対する危険性が予見可能であって、その公衆に対する販売が生命又は安全に危害を及ぼしうる商品

(vi) サービスプロバイダーが通常要求される注意を払えば公衆に対する危険性が予見可能であって、その公衆に対するサービスの提供が公衆の生命又は安全に危害を及ぼしうるサービス  

 

 このように、消費者保護法は多岐にわたる消費者紛争類型を苦情として認めることで、消費者の保護を図っています。なお、トレーダーには、商品の販売者はもとより、ディストリビューター、さらには製造業者が含まれるとされており(消費者保護法2条1項(J))、製造物の欠陥によって損害を被った場合、これらの者を相手取り紛争解決を図ることが可能です。相談者のケースは、このカテゴリーによって苦情を申し立てたものと考えられます。

 

(3) 地域フォーラムにおける手続概要

 消費者保護法は、消費者紛争を解決する特別な紛争解決機関として地域フォーラム、州フォーラム、ナショナル・コミッションについて規定しています。苦情の申立ては、その申立額等に応じて、地域フォーラム(申立額2,000,000ルピー以下)、州フォーラム(申立額2,000,000ルピー超え10,000,000ルピー以下)又はナショナル・コミッション(申立額10,000,000ルピー超え)にて審理されます。地域フォーラムにおいて下された命令に対しては州フォーラムに、州フォーラムにおいて下された命令はナショナル・コミッションにそれぞれ上訴可能です。

 地域フォーラムにおける手続具体例は以下のとおりです。まず、商品の苦情が問題となっているケースでは、まず地域フォーラムは、通常申立てを受理した日から21日以内に申立てられた苦情に正当性があるか否かに関して判断します(消費者保護法12条3項)。正当性があると判断された場合、地域フォーラムは、苦情の相手方に対して、苦情が認定された日から21日以内に、正当性があると認定された苦情のコピーを送付すると共に、原則30日以内の当該苦情に対する意見提出を命じなければなりません(消費者保護法13条1項)。

 その後、証拠調べ類似の手続が実施されます。試験所によって実施される鑑定類似の手続が導入されている他、いずれの手続も準司法的な手続となっており(同5項)、民事訴訟法における証人の召喚や証人尋問手続に関する規定が準用されております(同4項)。地域フォーラムは、申立苦情の相手方からの意見の提出を受けてから、原則として3ヶ月以内(試験所による検査が必要な場合、欠陥等の有無のための検査が必要なため、原則として5ヶ月以内)に苦情に対して判断を下さなければなりません(同3A項)。

 審理の結果、苦情に理由があると判断された場合、地域フォーラムは、以下の一つ又は複数の命令を下します(消費者保護法14条1項)。

 

(a) 試験所によって認定された係争商品に存在する欠陥の除去

(b) 欠陥の存在しない新品の類似商品との交換

(c) 申立人に対する、申立人が支払った代金の返金

(d) 相手方の過失によって消費者に発生した損失又は傷害に対して地域フォーラムが認定した補償金の支払い(地域フォーラムが適切と判断した場合には、懲罰的賠償も認定可能)

(e) 係争商品又はサービスに存在する欠陥の除去

(f) 不公正取引又は制限的取引の停止

(g) 販売のための有害商品提供の停止

(h) 販売中の有害商品の回収

(ha) 有害製品の製造停止又は有害サービスの提供停止

(hb) 多数の消費者に損失又は傷害が生じているものの、その消費者を容易に特定出来ない場合、地域フォーラムが認定した補償金の支払い

(hc) 誤解を招く広告を発行した相手方の費用負担において、当該誤解を招く広告の影響を中立化させる正しい広告の発行

(i) 適切な経費の支払い

 

 このように、消費者保護法は比較的短期間で終結する紛争解決手続を規定するとともに、地域フォーラム等に対して、柔軟な紛争解決手段を与えています。  相談者のケースでは、地域フォーラムが申立てられた苦情に理由があると判断した場合、代替商品の提供はもとより、製品によって生じた傷害の懲罰的賠償、さらには市場に出回っている製品の回収が命じられるおそれもなしとは言えません。

 

3 その他個別法による消費者保護  

 消費者保護法は、法が規定する安全基準に違反し、その公衆に対する販売が生命又は安全に危害を及ぼしうる商品の販売を苦情として認めていますが(消費者保護法2条1項(c)(v))、相談者との関係で問題となっている医療機器の安全基準には、医薬・化粧品法に規定があり、医薬・化粧品法の定める安全基準によって消費者の保護が図られていることとなります。

 

棚瀬法律事務所 デリー駐在弁護士 遠藤 衛

投稿者: 棚瀬法律事務所

棚瀬法律事務所03-6205-7930
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