2016.03.03更新

1 はじめに

 「国際相続『国外財産調書の提出制度』と『国外転出時課税制度(出国税)』」をテーマとして,法務ノートを以前書きました。「国外財産調書」以外にも国外財産に関して提出しなければならない書類があり,それらの書類を元に税務当局は海外資産を捕捉することになります。
以下では,どのような法制度があるかについて,概説を述べます。

 

2 法定調書
 「所得税法」,「相続税法」,「租税特別措置法」及び「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律」の規定により税務署に提出が義務づけられている資料を「法定調書」といいます。所得税法に規定されている「給与所得の源泉徴収票」が馴染みのあるものですが,平成27年4月1日現在の法令で61種類の法定調書が規定されています。
 そのうち,「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律」によって規定されている法定調書は,新たに「財産債務調書」が創設されたことによって「国外送金等調書」,「国外財産調書」,「国外証券移管等調書」,「財産債務調書」の4種類あり,財産債務調書制度は平成28年1月1日から施行されています。

 

3 国外送金等調書
 国外へ送金したり,国外からの送金を受領したりする者は,金融機関に対して,住民票の写し等の本人確認書類を提示するとともに,氏名や住所を記載した告知書を提出する必要があります(法3条)。そして,金融機関は,告知書の提出を受けて,当該顧客の「国外送金等調書」を作成して税務署に提出する必要があります(法4条)。この規定は,平成10年から施行されていますが,平成21年4月から,国外送金等調書の提出基準は,200万円超から100万円超に引き下げとなっています(施行令8条)。
 平成25事務年度の提出枚数は631万枚で,制度が導入された平成10事務年度の提出枚数の244万枚に比べて約2.6倍となっています。税務当局は,この国外送金等調書のデータに基づき,「お尋ね」という書類を送付しており,任意ではありますが回答書の作成について協力を求められます。

 

4 国外証券移管等調書
 平成26年度税制改正において,国境を越えて有価証券の証券口座間の移管を行った場合に調書の提出を義務付ける「国外証券移管等調書制度」が創設されました(法4条の2及び4条の3)。
 この制度は,国外送金等調書制度と同じく,一定の場合に金融機関に告知書を提出し,金融機関がその告知書に基づき調書を税務署に提出しなければならないという制度です。一定の場合とは,国内証券口座から国外証券口座への有価証券の移管を行う場合(国外証券移管)又は国外証券口座から国内証券口座への有価証券の受入れを行う場合(国外証券受入)が該当します。
 海外に資産を移転させる場合,資金を送金する方法であれば国外送金等調書によって税務当局はその事実を把握できますが,証券会社を利用して有価証券の形で移管させた場合には国外送金等調書制度の適用外であったため,適正・公平な課税を実現する観点から運用益や譲渡所得を免れることを防止するために導入されました。

 

5 国外財産調書
 国外財産調書制度は,以前の法務ノートでも解説しましたが,平成24年度の税制改正により導入され,平成26年1月から施行されています。また,調書の不提出や虚偽記載の場合の罰則規定については,平成27年1月から施行されています。
 その年の12月31日においてその価額の合計額が5000万円を超える国外財産を保有する居住者(非永住者を除く)は,翌年の3月15日までに当該国外財産の種類,数量及び価額その他必要な事項を記載した「国外財産調書」を税務署に提出しなければならないとされています(法5条)。

 

6 財産債務調書
 従来,所得税法において,その年分の各種の所得金額の合計額が2000万円を超える者は,その年の12月31日現在の財産や債務についてその種類や金額を記入した「財産及び債務の明細書」を確定申告書に添付しなければならないことになっていました。もっとも,その保有財産の記載内容は「土地」など概括的な記載のものや,金額等の記載がないものが多く,さらに提出率も4割程度であったので,財産調査の資料としては不十分とされていました。
 そこで,平成27年税制改正により法定調書に見直され,平成28年1月1日から施行されています(法6条の2)。財産債務調書は,①その年の所得金額が2000万円を超え,かつ,②その年の12月31日において価額の合計額が3億円以上の財産又は③1億円以上の国外転出特例対象財産を有する場合に提出しなければなりません。すなわち,「①+②」又は「①+③」の場合に調書を提出しなければならず,従来の所得(フロー)要件(①)のみであった「財産及び債務の明細書」に,財産(ストック)要件(②又は③)が加わっています。なお,「国外転出特例対象財産」とは,以前に法務ノートで解説した出国税に関する用語で,所得税法第60条の2第1項に規定する有価証券等,同条第2項に規定する未決済信用取引等及び同条第3項に規定する未決済デリバティブ取引に係る権利をいいます。
 財産債務調書制度には罰則規定はないものの,国外財産調書制度と同様に,加算税の加減算によるインセンティブ措置が設けられています(法6条の3)。財産債務調書の対象となる財産は多岐にわたり,相続税申告と同等の手間や時間がかかる場合もあるといえます。なお,他の制度と同様に,財産債務調書も税務当局による質問検査権の対象となっており,実地調査に移行する可能性があり(法7条),慎重に手続きを進める必要があります。

 
7 情報交換
 最後に,法定調書の制度ではないですが,各国との情報交換を通じて海外資産を捕捉することもあり,法改正により重要な問題になってきます。
米国では,外国口座税務コンプライアンス法(FATCA/ファトカ)という,米国人や米国法人等が租税回避を防止するためにつくられた法律があります。この法律に基づき,米国で事業を営む外国の金融機関は,米国人等が有する関連の海外口座情報について,米国内国歳入庁(IRS)に報告する必要があります。たとえば,スイスの銀行もFATCAによって守秘義務に幕を引いたと,いったことがニュースになっています。
 さらに,二国間ではなく,OECDを中心として租税回避を防止する取り組みが進んでおり(BEPSブロジェクト),OECD租税委員会は,非居住者の口座情報を多国間で自動的に交換し合う基準であるCRS(Common Reporting Standard/共通報告基準)を承認しました。これを受けて,平成27年度税制改正により,日本においても,「非居住者に係る金融口座情報等の自動的交換のための報告制度の整備」が導入されることになりました。

(弁護士 茨木佳貴)

以上

 

投稿者: 棚瀬法律事務所

棚瀬法律事務所03-6205-7930
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